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318 滝
しおりを挟む高いところから低いところに水が流れるのは世の理。
一滴の雨粒だろうと、大河の水であろうとも、それはかわらない。
そして何故だか、そんな当たり前のことに感動してしまう、ふしぎ生物が人間。
そりゃあ圧巻の大瀑布とかならば、まだわからなくもないけれども、それに比べるとチロチロと流れる滝をありがたがる意味がわからない。
地元の名所というので、週末に大学生のヒロ兄が運転するレンタカーにて山奥の方へとドライブがてらお出かけしてきた末妹のミヨちゃんとその親友のヒニクちゃん。
地元民としては一度ぐらいは見て置くのが礼儀だとおもったのだけれども、その滝を前にしてさっぱり価値がわからない。
「これがワビサビっていうのかな」
苔むした辛気臭い名所をまえに、ポツリとつぶやくミヨちゃん。
となりにていっしょに眺めていたヒニクちゃん。
季節のせいか、天候のせいかはわからないが、イマイチな水量につき、滝の姿にチカラはない。ハッキリ言ってお年寄りのション〇ンみたいに、たらたら。
そんなことをヒニクちゃんは考えていたけれども、もちろん淑女はそんな下品なことをわざわざ口に出したりはしない。あくまで頭の中で想像するだけ。
そんな幼女たちのすぐそばでは、女子大生だかOLだかの若い三人連れが「マイナスイオン、森林浴」とやたらとはしゃぎ、深呼吸をしていた。
お姉さんたちの熱心な様子に、ひょとして効果があるのかと、ちょいとマネしてみるミヨちゃん。だが花の小学二年生のピッチピチの肌は、これ以上ないくらいに潤っているので、いまいち効果が実感できない。
「ねえ、ヒロ兄ちゃん。マイナスイオンって子どもにも効くの?」
すぐうしろにて控えていた大学院に在籍中のインテリの兄に意見をもとめる妹。
「うーん、どうだろう。実はたいして効果ないかもって話もあるし。ぶっちゃけコップで水道水でも飲んだほうがよっぽど潤うと思うんだよね。それに今の自然の水っていろいろ含まれてるから。そもそも生で飲めないモノを肌から吸収するってのも、ちょっとどうかと思うし」
兄の言葉に「ふむふむ」とうなづく幼い妹。
あんなモノやこんなモノ……、国内外から集いしモロモロが混ざっている。
そういえば雨や雪とかも、そのまま口に入れるのはよろしくないとか。
たしかに不純物まみれの水の飛沫をあびて、美肌にはならないかもと納得。
するとその話が耳に届いたのか、さっきまで和気あいあいとしていた女性の三人組がピタリと静かになってしまった。
どうやら彼女たちもヒロ兄の説におもうところがあったようだ。
意図せずしてお姉さんたちのテンションをだだ下がりさせてしまったミヨちゃんたち。
滝の近くで営業をしている寂れた茶屋にて、お茶をしてから帰路につく。
お茶の味は、まぁ、ふつうだった。
「むかしはあそこの名水で淹れたお茶が名物だったらしいよ。寿命が三年のびるとかで。もっとも今では保健所がうるさいから、水は他所から仕入れたヤツだけどね」
ハンドルを握りながら、そんな裏話をペラペラ話すヒロ兄。
幼女二人が相手だからべつにかまわないが、もしも彼女さんとか異性といっしょのときに話題にしたら、いっきに興ざめすることであろう。
女は男のこういう賢しらなウンチク話を嫌う傾向が強いから。
後部座席から兄の後頭部をみながら、「だめねえ」とばかりに軽いタメ息をついたミヨちゃん。
するとここでおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「マイナスイオンは造語」
マイナスイオンはお化けといっしょ。あるといえばあるし、
ないといえばない。効くかどうかもよくわからない。ちなみに
ブームの火付け役のテレビ番組はインチキにて打ち切り済み。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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