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313 ウマとカブ

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 最終コーナーを回ったとたんに、一団から抜け出したのは二頭。
 騎手のふるうムチに合わせて、グングン加速しては、後続を引き離す。
 その二頭を外側から猛追する別の一頭の姿も。
 週末に電気屋の前にて、テレビの競馬中継を見物していたのは二人の幼女。
 ギャンブルにはまったく興味がない。
 というか、ギャンブルなんて終わってると考えていたのはミヨちゃん。
 彼女はおばあちゃん子につき、その辺の価値観はとっくに刷り込み済みにて、あんなモノをするヤツはロクデナシぐらいの認識。
 でも馬は好き。それは以前に図書館の無料上映会でみた馬と少女との物語を描いた作品をみた影響によるもの。なにより動物に罪はない。
 あれ以来、いまみたいにちょくちょく足を止めてみるようになっていた。
 そんなミヨちゃんのとなりにて、いっしょになってレースを視聴していたのはヒニクちゃん。
 ギャンブルに関する認識は、まぁ、あってもいいんじゃないの? ぐらい。
 だって禁止したって、どうせアンダーグラウンドで行われもの。
 目の届かないところでわるさをされるぐらいならば、しっかり管理して絞れるモノはしっかり絞りとらないと、もったいない。必要悪として監視管理にて、生かさず殺さず長くガッチリ、財源との認識。

 レースは外側からいっきにまくった馬が一着で幕を閉じました。
 ぶっちゃけ競争の順位にはまるで興味がない幼女たちは、存分に馬の姿を堪能したことに満足して電気屋の前から離れる。

「そういえばこのまえテレビでみたんだけど……」

 立派なビルの壁面に、たくさんのテレビが縦横いくつも並んで置かれており、画面の中には、たくさんの数字にて、プラスだのマイナスだの、円だのドルだのといった文字が踊っていたんだとか。
 なんでも株式とかいうモノらしいのだが、あれの何がどうして、ウハウハになるのかが、いまいちよくわからないとミヨちゃん。

「数字があがれば、もうかるの。で、数字がさがればソンするらしいんだけど。下がったいまが買い時だとか、様子みだとか、外国がどうとか。言っている意味はわからないけれども、ケイキを左右するんだって。それでいまはすごくケイキがいいって話なんだけど。……とくにかわってないよね?」

 商店の店先に並ぶ品物の値段を見て、そう言ったミヨちゃん。
 コロッケはケイキがよかろうがわるかろうが五十円のまま。
 缶ジュースの自動販売機の値段は、一部をのぞいて変わらないし、タバコに関してはゴリゴリ上がっている。
 クラスメイトで海外旅行がどうこう言っているのは、アイちゃんのところぐらいだし、自分の周囲にいるお年寄りたちは、「また年金が削られた! 健康保険があがった! そもそも年金から税金とるんじゃねえよ!」と文句たらたら。
 夕飯の食卓に料理が一品ふえるわけでもなく、お母さんはあいからず毎日、家計をしっかりと管理している。お父さんのおこづかいが増えたという話もきかない。

「えらい人たちが言っている、よくなったケイキはどこにいったのかしら? すくなくともこっちにはぜんぜん落ちてこないよね」

 数字ばかりが先行している景気回復について、きわめて庶民的かつ感じたままの疑問を口にした幼女。
 それを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口をひらく。

「ウマもカブもしょせんミズモノ」

 投資家といえば、頭がよくって出来る人のお仕事とのイメージ。
 ギャンブル大好きな人は、身を持ち崩したどうしようもないイメージ。
 依存症になるのも、やってることも大差ないのに、ふしぎに思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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