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307 フネ

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 川原にて男の子たちが集まって、何かをやっているのを見かけたのはミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
 なんとなくイヤな予感がピコンと働いた幼女たち。
 こそっとバレないように付近のしげみに潜み、様子をうかがっていたら、彼らはあろうことは発砲スチロールの箱を舟に見立てて、川へ乗り出すつもりのよう。
 たしかに大きな発泡スチロールの箱ならば、小さな子どもひとりぐらい乗せても水に浮く。
 オール片手に、ボートっぽくてイケそうな気もしないでもない。
 だが彼らは肝心なことを見落としている。
 船とはバランスの乗り物なのだ。
 底部がまっ平ら、船首も船尾も切り立った平面につき、水の抵抗を左右に逃がすことができない箱という構造が、浮かぶだけならばともかく、航行にはきわめて向いていないのである。
 そんな不安定な状況下にて、転覆しないようにバランスを取るのがいかにムズかしいか。
 ふつうのカヌーですらもうっかり気をぬくと、コテンとひっくりかえってドボンとなるというのに。

 案の定、意気揚々と漕ぎだしたとたんに転覆。
 さいわい浅瀬にてパンツまでびしょ濡れになった程度ですんだが、そんなことではへこたれない男の子たち。
 一つでだめなら二つだとばかりに、連結合体。
 それどころか「いっそのことイカダにして、みんなで冒険だ!」と六つもの箱をガムテープでぐるぐるとくっ付けて、なんとなくソレっぽいものを仕上げてしまった。
 ここまで黙って傍観していたミヨちゃん。

「なんだかイケそうにみえるんだけど、どうおもう?」

 たずねられたヒニクちゃんは、首を横にふる。
 せめてしっかりと固定してあれば、多少はもつだろうが、彼らが使っていたのはよりにもよって紙のガムテープ。
 そこはせめて布テープにしろよとか思いつつもヒニクちゃんはわざわざ口には出さない。なにせ彼女は一日平均百文字前後ですごす幼女につき、仲良しのミヨちゃん関連以外では、ほとんど言葉を発することがないから。

「でもあれで川の真ん中まで行ったら、さすがに危なくないかな。場所によっては深いところもあるらしいし、流れがはやいところもあるって聞いたけど」

 心配するミヨちゃん。
 一見すると穏やかに見える川の流れ。
 でも水底はまた別世界。水のチカラはあなどれない。それこそ大人の足ですらも軽くすくってしまう勢いがある。子どもなんて抗うヒマもなく、あっという間に流されてしまうことであろう。

「それにしても男の子たちって、冒険とか探検ってスキだよね」

 ミヨちゃんがそんなことを口にしつつも、そろそろ注意をしてやめさせようと腰を浮かせかけたところで、のそりと姿をあらわしたのは一頭の大きな野犬。
 この辺りを縄張りにしてるボスである。
 街の守護神にして、どこかでだれかがピンチになると、颯爽とあらわれては助けてくれるみんなのヒーロー。
 困っていたところを助けてもらったお金持ちの老人が、感謝感激して駅前に銅像を建てようと水面下で動いているというウワサもあるが、その真偽やいかに。

 ボスはのしのしと歩くと、そのまま子どもたちを押しのけるようにして、真っ直ぐに発砲スチロールのイカダに近づいた。
 そして前足のただの一撃にて、これを粉砕!
「あーっ」と声をあげた子どもたちを、ギロリとひとにらみにてダマらせると、そのままどこかへ、悠然と去って行った。
 どうやらボス的にアレでの大冒険はダメであったようだ。
 ということは、漕ぎ出していればまちがいなく転覆していたということ。
 あやういところで難をのがれた男の子たち。
 もっとも助けられたことに気がついていない彼らは、不平たらたらであったが。
 そんな男たちの姿を見ながら、ヒニクちゃんがぽつり。

「男は船、女は港というけれど」

 近頃では女が船で、男が港のパターンも増えてきたかも。
 それにしても、そんなにムリして冒険なんてしなくても、
 遅かれ早かれ異性と絡むようになったら、毎日がアドベンチャー。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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