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306 うらみ

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 ある日の朝のこと。
 教室にて、ちょっとムクれていたのはミヨちゃん。
 なにかとおもえばお母さんとケンカしちゃったらしい。
 その原因は、長靴。
 黄色のお気に入りだったのに、もう足のサイズに合わないからって、かってに捨てられていたことが発覚。

「どうして大切にしていたのに、捨てちゃったの!」
「だって、もう大きくなってミヨははけないでしょう。うちは家族が多いからあんまり下駄箱に余裕がないの。はけない靴をとっておいてもしょうがないでしょう。こんど新しいのを買ってあげるから」

 親が使い古しの品を処分して、新しいのを買ってくれる。
 ふつうならばよろこびそうなのだが、ミヨちゃんはわりと物持ちがいい幼児。
 お金に明かせて、ホイホイ買い替えるのはどうにも性にあわない。
 なによりお別れする機会をうばわれたことにこそ、彼女は怒っていたのだが、大人にはそんな繊細な子どもの心の機微がわからない。
 自分の持ち物をかってに捨てられた話を聞いて、「わかるわぁ」と言ったのはリョウコちゃん。こちらもなんだか今朝は機嫌が悪そう。

「いちごのショートケーキとか食べるときに、わたしはいちごを最後の楽しみにとっておくタイプなんだけど、昨日の晩に家族みんなでケーキを食べてたら、ちょっと目を離した隙に弟にとられちゃったの。それで怒ったら、なぜだかわたしがお母さんから怒られたんだ。『お姉ちゃんなんだからガマンしなさい』って。いっつもわたしが悪者扱いされて、これってヒドクない?」

 兄弟や姉弟などがいる家庭あるあるを披露したリョウコちゃん。
 日頃はサッカーでいそがしい合間にも家のことを手伝ったり、幼い弟の面倒をみたりと、とってもいいお姉さん。
 そんな姉からイチゴを奪うとは、何事か! と会話に加わったのはアイちゃん。彼女もまた今朝は少々イラついているご様子。

「あーあ、うちもリョウコちゃんみたいな、ちゃんとしたお姉さんだったらよかったのに」

 そう口にしたアイちゃん。彼女がグチったのは、読者モデルをしている女子高生の歳の離れた姉のこと。
 はっきりいって、かなり危ない妹ラブなお姉さん。変態の域に片足をつっこんでいるような人が、本格的に両足をつっこんできたらしい。あえて詳細は語らないが、どこか遠い目をしている表情をみれば、よっぽどのことがあったにちがいない。それでアイちゃんもプンプン怒っている。

 怒れるミヨちゃん、リョウコちゃん、アイちゃんの三人を「まあまあ」となだめていたのはチエミちゃん。
 さいわいなことに、日々これ小市民のしあわせを追求する彼女は、上がることもなく下がることもない平々凡々な生活を営んでいるがゆえに、わりと毎日が平穏。
 ある意味、もっとも心穏やかにて、それゆえに他者をいたわる余裕もあった。
 そんな四者四様の姿をじぃーと眺めていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。

「うらみには三つの種類がある」

 恨み、それは不満をもってプリプリ怒ること。
 怨み、それは憎しみを宿した憤り。
 憾み、なんだかちょっと残念な気持ち。とりあえずイチゴはダメだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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