302 / 1,003
302 かみなり
しおりを挟むその日は朝から天気があやしかった。
二時間目あたりから空が真っ黒になり、ピカピカと光が走り、ついにはゴロゴロガッシャーンと、ものすごいのが落ちた。
近くの鉄塔に落ちたらしく、かすかに地面がゆれて、教室の窓ガラスもビビビとふるえた。
続けて幾つものイナヅマが暴れて、あまりの迫力に子どもたちが「きゃっ」と悲鳴をあげる。窓際の席の子なんて、おもわず逃げようと腰を浮かせたほど。
だが教室内で一番、大きな悲鳴をあげていたのは、だれを隠そうヨーコ先生だった。
なんでも昔、山にハイキングに行ったときに、カミナリでえらい目にあったそうで、それ以来、あんまり強烈なのはダメになってしまったそうな。
ちなみにそのハイキングは女友達だらけで行ったとのこと。
すれちがう人、すれちがう人、年よりばっかり。
「山に落ちるのはカミナリばかりで、いい男はどこにも落ちていなかった」とのこと。
澄んだ空気に、キレイな景色、ココロもカラダも洗われるような環境にあって、女たちの口からもれるのは、自主規制すべき内容の毒話ばかり。
街中のファミレスやカフェとちがって、ひと目を気にしなくていい分だけ、性質がわるくなる。
カミナリにおびえながらも教え子たちに「あんたたちも気をつけなさいよ。女ばっかりで人気(ひとけ)のないところに遊びに行っても、ロクなことにならないんだからね」とグチっていた。
それを聞いていたクラスのおしゃれ番長のアイちゃん。
「知りたくなかった山ガールの真実」と地味にショックを受けている。
「でも女がゾロゾロ集まったら、そんなもんだろう? うちのチームの控室なんかも、たいがいだよ」
そう口にしたのはサッカー少女のリョウコちゃん。地元のチームに所属している彼女。体育会系が明るくさわやかだなんて、幻想だと言い切る。人が集まれば空気がよどみ、とうとうと湧くのは負の感情。汗とドロにまみれた汚部屋を見れば、百年の恋もいっしゅんで冷めるとのこと。
「……っていうか、山にかぎらず、いい男なんてそのへんにホイホイいるわけないよね。いたとしても、まずお手つきでしょう? そんな優良物件が売れ残っているほうがおかしいわよ。もしも残っていたら、それは事故物件の可能性が高い」
男性を物件に例えたのはチエミちゃん。容姿、能力、思考、その他すべてが平均値にすっぽりとおさまる、ストライクど真ん中な彼女は、きわめて堅実かつ現実的なモノの見方をする傾向にある。ムリせず、ムダなく、ほどほどに、がモットー。だから人生に過剰な期待も夢も抱かない。己が分をわきまえているがゆえに隙がない。
「わたし、カミナリきらい」
三人をまえにして、ぼそりとそうつぶやいたのはミヨちゃん。
キャラメル色のくせっ毛のはしがいつもピロロンとはねている幼女。
その頭は天候の影響をモロに受ける。そしてカミナリがゴロゴロ調子がいい日なんて、頭がどえらいことになっていた。
いつもの三割増しぐらいに、ボボンとはじけて、暴れている。
これにはさしものアイちゃんのブラッシングテクニックでもお手上げ。
それどころか何やら帯電しちゃっているらしく、うかつに扉とかに触れるとピリリときちゃう。
ミヨちゃんのそんな頭をからかった男の子なんて、逆に腕を掴まれて、静電気の刑に処されて、つぶされたカエルみたいな声をあげていたほど。
授業そっちのけでカミナリ談義に盛り上がる教室内の喧騒をながめつつ、ヒニクちゃんがぼそり。
「ああ無情。悲鳴にも賞味期限が」
小学二年生のキャアキャアは、にぎやかで、かわいらしい。
女子高生のキャアキャアは、かしましくて、あいらしい。
三十路手前の独身女教師のキャアキャアは……かなり痛ましい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる