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300 感性の法則
しおりを挟む図工の時間。
今日は粘土細工にて、好きなモノをつくる。
みんながワイワイとさわぎつつ、粘土をこねこね。
そんな中でいち早く作品を完成させたのはヒニクちゃん。
さっそくそれを見せにヨーコ先生の下へ。
そして即座にやりなおしを命じられた。
さすがに四角い粘土をそのままもっていって、「お豆腐」はムリがあったかと反省したヒニクちゃん。自分の席にもどって、ちょこちょこと小細工。
三分ばかしで仕上げて、ふたたびヨーコ先生の下へ。
そしてまたもや、やり直しを命じられる。
「コヒニさん、いくらネギっぽいのを添えたからって、冷ややっこは認められません。やりなおしです」
二度もダメ出しを喰らって、やや不満顔にて自分の席に戻ったヒニクちゃん。
ちらりと隣のミヨちゃんをみれば、彼女はあふれるほどの才能と情熱でもって、かわいらしいネコをせっせとこしらえていた。
まるまって寝ているネコを模したもの。
技術は拙い。だがそこにこめられた熱い想いがほとばしっている。
モフモフに蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われ、触れることのかなわないミヨちゃん。そのうっぷんが、心の内にてうごめく情念の炎が、ほとばしる一方通行の愛が、怨念のごとくぬりこめられたネコは、見る者をハッ! とさせる何かがゆらゆらと漂っている。
ミヨちゃんは感性がよく、芸術系がわりと得意。
対するヒニクちゃんは、人形作家をしているお母さんを持つわりには、そっち方面への興味が淡白。どうやら普段からすぐれた芸術作品に触れる機会があるがゆえに、すっかり見慣れて刺激を受けなくなってしまったよう。辛いモノばかり食べていたら舌がバカになるのと同じようなもの。
よもやこんなことになっていようとは、母であるコヒニサユリもおもいもよらないことであろう。
で、三度目の正直だとばかりにちゃっちゃと作品を仕上げて、ヨーコ先生のところに向かったヒニクちゃん。
すると先生の堪忍袋の緒がプツンと切れてしまった。
「豆腐に冷ややっこときて、次は焼き豆腐だなんてダメです。あと高野豆腐とかバターの塊とか、スライスして切れてるチーズだとか、モチとかも却下です」
いくつか用意していた弾をことごとく潰されて、ヒニクちゃんおもわず「ちっ」と舌打ち。
するとピクリとこめかみを動かしたヨーコ先生、グーの拳をふりあげる。
これはゴツンと頭にゲンコツが落ちるのか! と固唾をのんで見守るクラスの子どもたち。
ふりおろされた拳、それが向かったのは教え子の頭ではなくて、提出されていた焼き豆腐と言い張る四角い粘土。
ドスンとにぶい音がしてぐちゃりとなった粘土。
「はい、これでもうお豆腐シリーズはムリよね。わかったら、ちゃんと作りなさい」
三十路手前の女教師の怒りの鉄拳がきざまれた粘土。
へこんだあとが、まるで隕石が落ちて出来たクレーターのよう。
ここまでされては、さしものヒニクちゃんも、おとなしく創作活動に勤しむかと、だれもがおもった。だが彼女は筋金入りのものぐさ幼女であった。
仲良しのミヨちゃんのこと以外には、あまり労力を割きたくないヒニクちゃん。
だれもが予想しえないアイデアにて、ついに難局を打開することに……。
昇降口脇にある展示スペース。
そこに飾られてあるのは二つの粘土細工。
ミヨちゃん作「眠りネコ」
そのとなりにて並ぶのはヒニクちゃんの作品。
ヨーコ先生の怒りの拳をうけて、ぐちゃぐちゃになった粘土。彼女はそれにちょちょいとソレっぽい加工を施し「怒り」とのタイトルにて芸術っぽく仕上げた。
ぶん殴られて、荒れた水面のように踊る粘土は、燃え盛る怒りの炎のよう……、に見えなくもない。見る者の想像力を駆り立てるといえば聞こえがいいが、ようはただの手抜きの結晶。
なのに、それがたまたま図工の授業中であった教室の前を通りがかった校長先生の目にとまり、勝手に拡大解釈をした彼の手によって、全校生徒にさらされるハメに。
本物の芸術たるミヨちゃんの作品と並ぶと、なんと貧相なことか。
これを前にポツリとヒニクちゃん。
「わたしの感性はハタコウサクと同じレベルか」
ハタコウサク、それはこの小学校の校長先生の名前。
教頭のシフジアカネ女史が、あまりにも出来る女であるがゆえに、
その頭髪のごとく影の薄い男。それと同じだなんて地味にショック。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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