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292 組み立て
しおりを挟むDIY女子なるものが世間では流行しているらしい。
「へー、いまどきの若い子は日曜大工なんかに夢中になっているのかい? 私の時代には、あんなのを喜ぶのなんて、週末の休みを持て余したおっさんと相場が決まっていたんだけどねえ」
孫娘のミヨちゃんから話をきいて、そんな感想をこぼしたのはミヨちゃんのおばあちゃん。
ガタつく棚だとか、ゆがんだ本立てとか、使い勝手の悪いイスとか、鳥がまったく寄りつかない巣箱とか、取り出し口のないポストとか……。
しょせん素人の手慰みにて作った品は、けっきょく粗大ごみにしかならなかったとのこと。あんなのでムダに材木や釘をダメにするぐらいならば、障子や襖の一枚でもかえてくれたほうが、よっぽど助かるとのグチまで。
どうやら故人となってひさしい祖父と何かあったらしい。
「うーん、なんだかわたしが知っているのと、ちょっとちがう気がする」とミヨちゃん。
おかしい……。
やってることは同じようなはずなのに、日曜大工と言われると、とたんにダサく感じるのはどうしてなんだろう? と首をかしげたミヨちゃん
なお彼女がこんな話題を持ち出したのは、自分でもちょっとやってみたいと思ったから。
自分の部屋をステキ空間に改造する。
なんたる魅惑的なことであろうか。
この頃、テレビでもアイドルとか芸人とかが、本職顔負けにて、ちゃっちゃとやっている姿もよく目にしている。
だけれども、それはあくまでテレビ番組だからこそ可能であったのだと幼女は思い知った。
まず道具がない。
家にあるのはサビてろくに切れやしないノコギリ。カナヅチに釘が少々。カンナもあるけれども、あんなもの素人では扱えやしない。
材料となる木材もない。あるのはお母さんがせっせとため込んでいるカマボコの板ぐらい。
壁を塗るには塗料がいるし、専用のローラーもいる。
壁紙を張りかえるにしたって、いろいろ揃える必要がある。
電動ドリルもディクスグラインダーも丸ノコもありやしない。
ぶっちゃけ道具から必要な品まで、すべてを用意したらとんでもない金額になる。
しかもそこから多大な労力と時間をドバドバ浪費して、なんとか完成にこぎつけても、けっして満足のいく出来栄えにはならないであろう。
そもそも網戸の張替え程度ですらも、わりと一家そろって大さわぎする程度の実力で、日曜大工? ハンっと鼻で笑われてもしようがない。
しょせんは金持ちの道楽。一般人の、それもまだまだ幼い身の上ではとても無理だとわかり、軽くへこんだミヨちゃん。
きびしい現実を前に、すっかりしおれた孫娘。
これを不憫に感じたおばあちゃんが、あることを思い出した。
「おっ! そうだ。ちょっと待ってな」
孫を待たせて、自分の部屋の押し入れをガサゴソ。
それで持ち出してきたのはカラーボックス(未開封品)。
ドライバー一本で組み立てられる、三段の棚。
昨年末のサークルの忘年会のビンゴゲームにて当たった品。いちいちやってられっかと面倒になりほったらかしていた品が、ついに日の目を見る。ついでにやっかい払いもできて一石二鳥と、祖母ホクホク顔。
「とりあえず、こいつでも組み立てて、DIYだったっけか? その気分だけでも味わってみたらどうだい」とおばあちゃん。
組み上がった棚は好きにしていいといわれて、よろこんだミヨちゃん。
さっそくがんばろうとしたのだけれども、一人だとちょっと不安。かといって大人の手を借りるのもなんだかちがう。
そこで仲良しのヒニクちゃんに連絡を入れて、助っ人参戦してもらうことに。
組み立目安十分。
そんな甘言が箱の表面にデカデカと書いてあったのだけれども、とんでもない。
まず説明書が小学二年生の女の子たちには、ちとムズかしい。
それでもイラストからなんとなく読み解き、もたもたと進行。
イイ感じと油断したところで、天地のワナが幼女たちに襲いかかるっ!
側面の板の向きをキチンとあわせないと、微妙にネジ穴がズレて、パーツがかみあわないという地味なトラップにて、ますます進行がとどこおる。
それでもなんとか仕上がったとおもったら、背面板に差し込むと固定パーツに苦戦し、そうしてようやく完成させたカラーボックスは、最安値の品につき棚が不動タイプ。
これがすこぶる使い勝手がわるい。
少女マンガのコミックを入れるには中途半端な棚の高さ。
少女マンガの雑誌を入れるのにも中途半端な高さ。
しょせん年寄りたちのビンゴゲームの数合わせの景品につき、幼女の好みに合うわけもなく、すっかりくたびれてしまったミヨちゃん。
すると黙々と作業を手伝って完成にまでこぎつけたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「ドゥ・イット・ユアセルフ」
専門業者じゃない素人が自分で何かを作ったり修繕すること。
なんでも協会や検定とかまであるらしい。
アドバイザー資格とか、それってもうぜんぜん素人じゃないよね、とか思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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