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278 暴風雨
しおりを挟む仲良く下校していたのは性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃんと、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。近頃では腕っぷしの強さでもちょっと有名になりつつあるけれども、当人は預かり知らぬこと。
トテトテ歩いていると、イヌの散歩をしているお姉さんが向こうからやってきたので、道の反対側へと移動するミヨちゃんとヒニクちゃん。
やたらとイヌやネコたちから嫌われるミヨちゃん。もしも彼女がうっかり近寄ったら、訓練に訓練を重ねたエリート中のエリートの警察犬や救助犬、盲導犬でさえも自制を失う。……かもしれない。
そのへんの事情を考慮して、自ら身をひくのはミヨちゃんのやさしさゆえ。
さすがに何度もうかつに近寄っては吠えらえるをくり返しているだけあって、適度な距離はわきまえている。道の幅ぐらいもあければ、とりあえずことなきをえる。
ちょっとだけ緊張しつつすれちがったところで、ミヨちゃんがこんなことを口にした。
「そういえば、このまえ、やたらと風の強い日があったじゃない。あのときなんだけどねえ……」
かつて経験したことのないほどの暴風雨が、この街を席巻した日。
どれくらいすごかったかというと、駐車場やベランダの屋根が飛んだり、自動車がひっくりかえったり、工事現場の足場が崩れるほど。
そんな日にて、ミヨちゃんの家のご近所の愛犬家のお宅。
雨が降ろうと雪が降ろうと、それこそ台風のときだって、イヌは散歩にいきたがる。イヌにとっては天気なんて関係ない。飼い主との散歩の時間は、それだけ彼らにとってはかけがえのないもの。
そしてそれは愛犬家にとっても同じこと。
だから雨ガッパを着込んだ中学生の女の子が、イヌを散歩につれていこうとした。さすがにいつも通りとはいかないけれども、ちょっと町内を回るだけでもと考えた。
しかし夕闇迫る外はあいにくの嵐で、とっても危ない。
だからお母さんは言いました。「ダメよ。あぶないからお父さんにまかせておきなさい」と。
玄関にて母娘がイヌをはさんでそんな会話をしているところに、ちょうど帰宅したお父さん。すでに雨が激しくなっており、風もかなり強い。おかげで傘がちっとも役に立たなくて、せっかくのスーツがびしょぬれ。革靴もずぶずぶ。ノートパソコンが入っているカバンだけはビニール袋に入れて死守していたので無事といった状態。
これを見たお母さん、にっこり笑顔にて、「あら、あなたおかえりなさい。ちょうどよかったわ。濡れついでにこの子の散歩をおねがい」
こうしてお母さんから有無を言わさずに手渡されたリード片手に、ふたたび嵐の中へと出て行ったお父さん。
ちなみにイヌの方はばっちり専用の雨ガッパを着込んでいるので、毛が濡れることはありませんでした。
この話をし終えたミヨちゃん。
「このお父さんって近所でも『やさしい』って評判の人なんだぁ」
イヌ好きの愛犬家にして、家族想いで働き者のよきパパさん。そんな人物のエピソードを語った幼女。結婚するならそんな男の人がいいなぁと口にしたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「それはたぶん序列」
序列第一位、お母さん。
序列第二位、お嬢さん。
序列第三位、ワンちゃん。がんばれパパさん。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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