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272 動物愛護
しおりを挟む今週は学校をあげての動物愛護週間。
べつに特別なことをするわけじゃなくって、日頃はあまり生き物に縁のない子たちも飼育係のお手伝いをして、アニマルたちを身近に感じようという企画。
しかしこれを手ぐすねひいて待ちわびていたのは、チエミちゃん。
容姿、能力、その他ものもろが平均値にすっぽりとおさまるゆえに、大多数の生徒たちの指針となりうることから、教師たちより裏で「偉大なる凡」と呼ばれる彼女は飼育係。
この小学校では飼育小屋に頭突き魔の雄ヤギ、帝王パッソをはじめ、わりと狂暴なニワトリとかも多数いて、飼育係は子どもたちの間では人気ワースト一位の係。
もちろんチエミちゃんもイヤだった。だがじゃんけん大会に負けて泣く泣く引き受けることになった。それからはもう聞くも涙、語るも涙の悪戦苦闘の日々。
途中からミヨちゃんやヒニクちゃんの手を借りることを覚えて、多少は楽になったとはいえ、それでもつらいのにはかわらない。
そんなつらい仕事を自分に押し付けたクラスメイトたち。
チエミちゃんは密かにこのときがくるのをずっと待っていた。
いまここに悪夢の一週間、復讐劇の幕が開く。
少しは私の味わった苦労を思い知るがよいとばかりに、指導員という立場を利用して、次々とクラスメイトたちを窮地へと追い込むチエミちゃん。
おかげで放課後の飼育小屋付近には、逃げまどう幼子らの姿が絶えることはなく、被害者続出。ケケケと悪魔の笑いがこだまする。
気性が荒いパッソだが、さりとて小学二年生相手に頭突きをかますほど非道ではない。ただズズイと顔を近づけてのガン飛ばし。大きな顔のヤギ、その独特のギョロ目にてにらまれるだけなのだが、それでも十分の恐怖。その場で怖い思いをして、家に帰ってから夜に悪夢にうなされるという、二重苦がお約束のパターン。
真っ赤なトサカの雄鶏に追いかけ回され、ケモノ臭にまみれながら糞尿の始末。
うさぎとて、その愛らしい見た目からは想像もつかないほどの、住処の荒れ具合。
人もケモノも数がそろえば、それはもはや立派な凶器。
幼くしてアニマルらと共に生きるムズかしさを思い知る子どもたち。
このように動物愛護週間だけれども、大量に動物嫌いの子どもをせっせと育てているような中にあって、一人さみしく小池のほとりに佇んでいたのはミヨちゃん。
「ミヨちゃんはそこでじっとしてて」
チエミちゃんからそう言われて、しぶしぶそれに従っているミヨちゃん。
なにせ彼女が飼育小屋に近づくと、動物たちが暴れてどうしようもなくなるので。それが当人もわかっているので、彼女もおとなしくしている。
そんな幼女をなぐさめるかのように寄り添っているのはヒニクちゃん。
と足下の池の縁に集まったコイたち。ビチビチとやかましい。
産まれながらに動物には嫌われるけど、魚類には好かれるミヨちゃん。このナゾがいつか解明される日がくるのだろうか?
することがないので退屈していたミヨちゃんとヒニクちゃん。
ふと見たら、三人の男の子たちがウサギの鼻先にエサの菜っ葉の切れ端をぶらさげて、ホレホレとイジワルをしている姿が目に入った。
これに憤慨したミヨちゃんが注意しようとしたら、それよりも先に正義の鉄槌が下る。
スパン! スパン! スパン! といい音がして、男子たちが「いってー」とお尻をおさえている。
ふざけていた男子たちを、リョウコちゃんが問答無用でケツキック。
これを見たミヨちゃんが拍手喝采。
そして男の子たちはチエミちゃんに引っ立てられて、パッソの刑に。
ドナドナされていった男の子たちの背中を見送りながら、ヒニクちゃんがぼそり。
「飼育と調教、保護とエゴは紙一重」
動物愛護ゆえに、動物(男子)をクリティカルヒット。
アレはかわいいし、かしこいからダメ。でもこっちはバカで、
数が多いからかまわない。動物愛護って何なのかしらね。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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