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270 ドンとボス
しおりを挟むその日、幼女たちは奇跡の光景を目の当たりする。
いつものように仲良く二人で下校をしていたミヨちゃんとヒニクちゃん。
基本的には寄り道はしない主義だけど、たまにはハメをはずしたくなることもある。だからその日は、ちょっと堤防から河原に降りて、石拾いに興じていた。
ここではたまにキレイな石が見つかることがある。
上流から流れてきたモノ。いちおうは宝石の類だけど、小さいし混ざりものも多くて、市場価値はない、クズ石。
それでも子どもの目には、宝物のように映る。
ましてや苦労をして手に入れた品とあれば、その価値はプライスレス。
ランドセルやカバンを置き、浅瀬にてトレジャーハンティングに精をだす幼女たち。
「あった! あっ、ダメだー。これはハズレ石だー」
拾ったばかりの緑がかった乳白色の小石を、ぽいっと投げ捨てたのはミヨちゃん。
彼女がハズレ石と呼んでいたのは、川に捨てられたガラス片が水や川床にもまれて、研磨されて丸くなった石もどきのこと。ぱっと見にはキレイなのだが、どことなく造り物のような色味にて、重さも軽く、フェイク感が満載。
それゆえに幼女たちのおめがねにはかなわない。
ミヨちゃんが浅瀬の水溜まりを中心に捜索しているあいだ、ヒニクちゃんはわりと大きな石をごろんとひっくり返しては、その底をさらうをくり返していた。
そしてついに、お目当ての品を発見!
手にした品をさっそくミヨちゃんに見せたヒニクちゃん。
「コケっぽい色にしましまのもよう。これはメノウだね」
と、せっかく見つけた品をズズイとミヨちゃんに無言で差し出すヒニクちゃん。
「ダメだよ。さすがにこれは受けとれないよ」と断ったミヨちゃん。だがヒニクちゃんは引き下がらない。そこで幼女らが「あげる」「ダメ」と押し問答をしていたら、いきなり、付近のしげみがガサガサ、ばしゃばしゃと激しく音を立てた。
野良猫とかヘビとかが立てるような音ではない。もっと激しく、まるで何者かが争っているかのよう。
おどろいた幼女たちが、おそるおそるのぞいてみると、そこにいたのは三匹の動物たち。
一匹は、大きな野良猫のドン。
一匹は、大きな野良犬のボス。
一匹は、まるでワニみたいな口をした魚。
ただし、この中でいちばんの巨体はその魚。たぶん二メートルぐらいもあろうか。
そいつが浅瀬にてビタンビタンと暴れては、太くたくましい尾をふりまわし、ギザギザしたノコギリみたいな牙だらけの大きな口をガチガチ鳴らしている。
対するはドンとボス。
「あっ! あれってワニゲーターガーとかいう魚だよ。まえにテレビでみたことある」と叫んだのはミヨちゃん。
きっとどこぞの無責任な飼い主が川に捨てたソレが、ここまで大きく成長したモノなのだろうが、とにかくデカい。ここまでいくともはや怪獣だ。もしも川でおそわれたらと想像して真っ青になったミヨちゃん。
ヒニクちゃんは黙ったまま、じっと三匹の戦いの様子を見守るのみ。
そんな幼女たちの目の前で、まず魅せたのはボス。
巨大魚の尾っぽの一撃をギリギリでかわすと、すかさず尾の先に牙をつきたて、これを豪快に持ち上げてふりまわした。さながら鬼が金棒をふりまわすかのように。
そして最寄りの岩の上に顔面を叩きつける。
ズドンともの凄い音を立てたワニゲーターガー。しかしそれでもまだ体をビタンバタンと暴れさす元気と気力が残っている。なんというタフネスぶり。伊達にここまで異国の地で生き残ってきたわけではないということ。
しかしそれもここまで。
ドンの必殺の猫爪がここに炸裂。
その切れ味はミヨちゃんらが想像していたよりも、ずっと、もっと、えげつなかった。
スパンと首を一刀両断! ボトリと落ちた魚の首。
時代劇の首切り役人のごとき、あまりにも見事な剣技に、斬られた当人もしばらく気づけなかったにちがいあるまい。
戦い終えたドンとボスは、とくに目を合わせることもなく、いずこかへと消えていき、あとには無残な巨大魚の骸が転がるのみ。
戦いを見届けた幼女たち。
「やっぱりドンもボスもつえー。ドスンでスパンって、ちょっとすごすぎるよ」
はからずしも最強タッグの戦いぶりを見て、興奮したミヨちゃん。
だけどここでおもむろに口を開いたヒニクちゃん。
「ちがう。真におそるべきはこの敗者」
凄腕の剣客のごとき切れ味の妖刀爪を持つ、野良猫のドン。
超人レスラーのごときチカラと投げ技を持つ、野良犬のボス。
そんな二頭がタッグを組む必要があるほどの相手。おそるべし外来生物。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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