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267 タレント

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 女の子が変身して、悪の怪人と拳で語り合うアニメ映画。
 かわいい見た目でパワフルアクション。そのギャップが受けているテレビアニメの映画版。
 そのタダ券をもらったので、二人して映画館に足を運んだミヨちゃんとヒニクちゃん。
 駅前の高層ビルの中に入っている、全国規模で展開している映画館にて、内装はとってもゴージャス。
 キレイで清潔な館内。広くて大きい座席、しかもどの座席からでもしっかりと画面が見えるようにとの配慮がなされているので、安心。

 映画館といえばポップコーンにコーラ。
 しかし幼女二人は、それを拒む。
 理由その一、映画の途中でトイレにいきたくなったらこまる。
 理由その二、せっかくのいい場面のときに、となりでムシャコラされたら、マジでむかつく。
 理由その三、価格がぼったくり。スーパーで買えば二百円でおつりがくる。だがここだと三倍強。幼女の財布にはあまりにも痛すぎる。
 理由その四、けっこうニオイが周囲に漂ってはずかしい。
 理由その五、手がべたべたして気持ちわるい。

 そんなわけで二人は上映前にしっかりとトイレをすませて、あとはちょこんと指定席にてお座り。
 日曜日の午後ということもあって、家族連れが目立つかと思いきや、案外、一人客も多い。年齢層はわりと若く、圧倒的に男性ばかり。いわゆる大きなお友達という奴なのだろう。
 なにせこの作品は、テレビにて二十年近くも続いているビッグシリーズ。
 ゼロ歳から見始めていた赤ちゃんが、成人式を迎えるぐらいなのだから、ファン層は実に幅広い。そしてそんなお兄さんたちがいてくれるからこそ、シリーズは今なお進化を遂げつつ続いているのだ。
 彼らはいわばスポンサー、製作メーカーにとっては上の太い客。あるいは金のなる木。それとも金のブタ。というのはさすがに失礼か。
 などとヒニクちゃんが内心で考えていると、ミヨちゃんがこっそりとトーンを落とした声にて「おっきなお兄さんがおおいね。これならうちの兄ちゃんたちも誘えばよかったかな」

 一見すると兄想いのやさしい妹のような発言。
 だがその心は、歩くお財布。
 大学生のヒロ兄、高校生のタカ兄、ともにその経済力は小学二年生とは比べものにならない。かといってシスコンの兄たちに散財させるほど、ミヨちゃんは悪辣な性質ではないので、せいぜいファーストフードでいちばん安いセットをおねだりするぐらい。
 ミヨちゃんは基本的にお財布にも兄たちにもやさしい妹なのである。

 そうこうするうちに映画がはじまる。
 中身については、まぁ、ありきたりというか、お約束のオンパレード。
 ヒロインたちがピンチになって、なんだかんだでチカラを合わせて、大逆転でやったね! といった感じ。だから詳細は割愛。
 チープといえばチープだけど、王道は誰からも愛されるからこその王道。
 そのど真ん中を突っ切った作品は、おおきなお友達には好評だったよう。

 で、肝心の幼女たちはどうであったのかというと……。

「まぁ、あんなもんだよね」

 わりと冷めた意見のミヨちゃん。日頃から人が死にまくっている二時間サスペンスドラマや、陰湿なイジメが登場する少女マンガ、濃厚な人の心の機微を描いた風情ある時代劇などを視聴している彼女の肥えた目には、よくもわるくも子ども向けにしか映らない。

「アクションとかアニメならではの迫力なんだけど……。わたし、コンピューターグラフィックがあんまり好きじゃないんだよねえ。すっごくがんばっているのはわかるんだけど、絵のタッチが独特というか、のっぺりしているというか。なんか絵に温かみが感じられないの。マネキンが動いているみたいで、なんだか気持ちわるい」

 最近では当たり前になってきたCG処理。
 制作予算の関係や、技術的な問題など、活用される理由はいろいろとあるのだろうけれども、幼女はお気に召さなかったみたい。
 するとここで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「キャラクターはいい。夢がある」

 3Dと違って2Dは安心安全。浮気もしないし、スキャンダルもなし。
 交通事故に暴力事件。酒を飲んで暴れることもない。仕事を飛ばすことも、
 ファンの期待を裏切ることもない。最強のタレントだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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