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266 当たり屋

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 あなたは超能力の存在を信じるだろうか?
 あんなものはインチキだよ。そう断じるのは簡単だ。
 実際のところ、世の中に出回っているその手の話の大半は、その通りなのだから。
 でもこの手の話題が尽きることはない。

 どこぞの国では秘密の研究機関にて軍事転用を本気で目指していたとか。
 どこぞの国では数々の難事件の解決に貢献したとか。
 どこぞの国では本物との触れ込みにてスターになり莫大な富を築いた人がいたとか。

 本当のところはわからない。
 だがチカラがあると言う人がいて、これを目にする人がいて、認めざるおえない結果を出していたとしたらどうであろうか?
 そんな人物が、なんと! ミヨちゃんとヒニクちゃんのそばにもいた。
 実名を公表すると、いろいろと差し障りがあるので、この場では仮にWくんとしておこう。
 彼がよく出没するのは、付近の小学生たちのオアシスとなっている駄菓子屋、もしくはコンビニやスーパーの周辺。
 それらにお菓子やアイスなんかを買いに来た子たちは、だいたいがWくんを見かけたら彼に声をかける。
 そして彼に買い物を手伝ってもらう。
 なぜそんなマネをするのかというと、彼が選んだ品は、的中率七割にて当たりがでるから。海外で活躍する一流野球選手の打率が、四割に届かないことからも、おわかりであろう。これがいかにすさまじい数字なのかということが。
 当たりつきのアイスを一本を買うと二本になる。お菓子もまたしかり。なかにはオマケ目当てで彼を頼る子も多い。ノッテるときには最大五連続の当たりを引き当てたこともあるとかないとか。
 それは子どもたちにとっては石ころを金にかえる、錬金術にもひとしい所業。
 ある子がWくんに「どうして当たるやつがわかるの?」とたずねたら、彼はこう答えた。

「手にとったらなんとなく重みがわかるんだよ。ズシっとくるっていうか、アレ? これは他のとちょっとちがうかなって」

 はじめは半信半疑であった者も、一度、その奇跡を目の当たりすれば、とたんに熱烈な信者となる。おかげで評判は口コミで子どもたちの間で広まり、いまではみな彼のことを敬意をこめて「当たり屋」と呼ぶ。

「これってどうおもう? やっぱり超能力なのかなぁ」

 そう話をふってきたのはミヨちゃん。

「でもって、よくをかいた中学生のお兄さんがね。Wくんにスクラッチクジ? だったかな。銀のやつを十円玉でこするの。それをやらしたんだけど、そっちはまるでうまくいかなかったって」

 なにせWくんの能力は手にとって、微妙な重さの変化から、当たりの有無を判定するもの。それゆえにたとえ手にしたスクラッチの中に当たりがあっても、どこを削ればいいのかまではわからない。
 そんなわけで宝くじとかもダメ。競馬に競輪、パチンコとおよそ世にあふれるギャンブルとは致命的に相性が悪い。
 案外、使い勝手の悪い超能力。

「すごいけど、すごくない、なんだかよくわからないふしぎなチカラ。でもね……、世の中にはなにごとにもタダなものなんてなかったんだ。彼のチカラにはおそろしい副作用があったの。それはね……」

 やたらとタメをつくって、真剣な表情を見せたミヨちゃん。
 わりとくだらない話題が一転して、おかしな空気になってヒニクちゃんが、ちょっと困惑顔をしたところで、ミヨちゃんは言った。

「それはね。Wくんがぶくぶく太っちゃったの。だって当たりに手をかすたんびに、みんなから報酬として、お菓子やアイスを分けてもらっていたから」

 話のオチを披露して、ひとりケタケタ笑うミヨちゃん。
 そこでおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「発達した科学は魔法と区別がつかない、らしい」

 鉄の塊が空を飛び、海をゆき、深海に潜って、月にいく。
 有名な発明家とか天才も、だいたい最後のほうは、怪しげな分野に挑戦。
 超能力もだけど、できれば楽にやせられる方法も早く見つけて欲しいと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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