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243 オムライス
しおりを挟むその日、教室内は異様な空気に包まれていた。
いつもは和気あいあいとしている子どもたちが、いくつかの陣営に別れて、互いをけん制していたから。
ことの発端はミヨちゃん。
キャラメル色のくせっ毛の幼女は言った。
「きのうお母さんがオムライスの具にチクワを入れたの。だけどこれがイマイチだったんだぁ。チクワは大好きだけどケチャップの味とは、ちょっと合わないみたい」
ふわとろタマゴのお母さん特製のオムライス。
いつもはソーセージを使うのだけれども、あいにく切らしていた。だから冷蔵庫の片隅にあったチクワを使用してみたのだが……。
ひと口、口に含んだとたんにパッと花開くケチャップのほどよい甘味と酸味。
絶妙なスパイス加減にライスとタマゴが絡み合って、極上のハーモニーを奏で、思わず幼女のほっぺたも落ちる。
しかし後からチクワの風味がひょっこりこんにちわ。
するとふしぎなことに、口の中が何やら生臭くなってしまった。
これにはミヨちゃんも「うっ」としかめっ面となる。
パエリアとかパスタとか、魚介とトマトを絡めた料理はいっぱいある。だから合いそうなものなのに、なぜだか合い入れようとしない両者。
「なんでだろうねぇ?」と小首をかしげたミヨちゃん。あいにくとその答えを知らないヒニクちゃんもいっしょに小首をかしげている。
するとここでおもわぬ事態が起こった。
たまたまミヨちゃんの話を耳にした通りすがりの男子が、「おいおい、オムライスにはタマネギとミンチ肉だろう。チクワなんてナンセンス」
そんな彼の発言を耳にした別の男子が「はぁ? おまえ何言っての。具なんていらないんだよ。バターライスにデミグラスこそが最高なんじゃねえか」
好きなモノを否定されて、とたんに険悪なムードが漂い始める両者。
しょうがない男子たちを前にして、ある女の子が「バカね。ケチャップライスに固めのペタっとしたやつが正統派なのよ」
カレーとかお鍋とかお味噌汁とか、各家庭の個性が光る料理がある。
どうやらオムライスもその中に含まれていたようで、わりといろんな意見が次々と飛び出し、いつしか教室は各派閥がしのぎを削る群雄割拠の戦国時代に突入していた。
その中でも巧に他勢力を吸収して一大勢力へと発達したのが「プレーン派」「ケチャップライス派」「タマゴふわとろ派」の三勢力。
すっかり三つ巴の三国時代に突入したオムライス論争。
あまりの急展開にまるでついていけないミヨちゃん。自分のせいかとオロオロ。
そんな友を前にして、一日平均百文字前後で過ごす省エネ幼女ヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「家庭の味論争に答えはない」
友達の家の食卓にて、うん? 親戚が集まった食事会にて、あれ?
夫の実家の食卓にて、えーと? 妻の実家の食卓にて、うーん?
嫁と姑がそろって、コレは? 自分が意外と少数派ってこと、案外多いと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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