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222 勤勉
しおりを挟む今日は小学校の授業が午前中で終了。
台風が急に進路を変えて、こちらに向かってきたので、すみやかに子どもらを家に帰すようにとの通達が上の方から来たため。
午後の勉強がなくなったと、はしゃぎたいところだが、家に帰って、あとはじっとこもっていなければならない。ばっちりと宿題も出されているので、喜んでばかりもいられないのが実情。
子どもらがフラフラせずに真っ直ぐに帰宅するようにと、上級生らと組まされての集団下校を実施。迎えにきた保護者らとも合流。
ふだんとはちょっと違う雰囲気と面子にドキドキしながらも、大人しく行動を共にしていたのは二人の女の子。
キャラメル色のくせっ毛のはしが、いつもはピロンとはねているのだけど、台風が接近している影響にて湿度が増しているのか、ちょっとしっとりヘアーなミヨちゃん、小学二年生。
となりに並んで黙々と歩いているのはヒニクちゃん。お人形のような見た目に反して、能面女子につき、いろいろと取り扱いに注意が必要な、同じく小学二年生。
「あーあ、この分だとテレビも特番だらけだろうなぁ。アレってどこも同じでつまんないんだよねえ」
危険だから水辺には近寄らないで下さい。危ないから外に出ないで下さい。とかいいながら、自分たちがのこのこと出かけているテレビの中継。
波が荒れ狂う防波堤の近く、ポツンと崖の上にある灯台の下、ビル風の激しい都会の谷間……。どこの局も競いあうかのように、台風の中にわざわざ飛び込んでは、ぎゃあぎゃあと現場のアナウンサーが騒ぐシーンを垂れ流す。
少しでも有益な情報を視聴者に届けようとする姿勢には感心するけど、それだけじゃないよね? とミヨちゃんは幼心にて敏感に察している。
「あと、なんでそんな時に、みんな会社に行くのかな? どうせお仕事にならないのに」
雨、風、嵐もなんのその。たとえ台風でも大雪でも地震でも、関係なし。
電車が停まればバスで、バスがダメならタクシーで、それでもダメなら歩いてでも会社に向かう。それも一人や二人の話ではなくて、何百何千何万人と。
駅やバス停、タクシー乗り場などで鈴なりになっている大人たち。
「これを見て、海外の人がおどろいてたって」
より正しくは、驚きと、尊敬と、感心と呆れの入り混じった感想を抱いた。
とある世界的な企業の経営者は「うちにもあんな忠誠心に溢れた社員が欲しい」とのコメントを発し、とある他国の政治家は「すごい人たちだ。責任感がすご過ぎる」とのコメントを発したという。
テレビでよく見かけるコメンテーターは「これも勤勉さの現れ、国民性ですよ」と誇らしげ。
一見すると持ち上げて褒めているようだけど、その裏には「クレイジー」との声が潜んでいる。
「子どもには早く帰れって言うクセに、なんだかヘンなの」
至極真っ当な意見をミヨちゃんが口にしたところで、おもむろにヒニクちゃんの口が開いた。
「国民性というのは、きっと当たってる」
海外と比べると何かとアピール下手なことで有名なお国柄。
輪を尊ぶ島国根性ゆえなのだけど、そんな彼らの周囲に向けての懸命な自己主張。
私はここにいるよ。イラない子じゃないよ。それがあの行動の正体だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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