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221 ピヨピヨ

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 長距離バスやトラックの事故が相次いでいる。なかには人を巻き込んでの悲惨なモノもあり、原因究明が声高に叫ばれる中、過酷な勤務実態などが露見して、運送業界全体が大わらわ。
 連日、各マスコミでも熱心に取り上げられている。

「ケイタイ片手に、ハンドルをにぎるのはダメだよね」

 一時期はやたらと厳しかった取り締まり。だけどすっかりズブズブになった現状を嘆いていたのはミヨちゃん。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているけど、それだけ周囲からの信任も厚い小学二年生。
 彼女のもっともな意見にコクンとうなづいて見せたのはヒニクちゃん。極端に無口な性質にて一日平均百文字前後で過ごす。たまに口を開けばキツメのコメントが多いので、いつからか、こんなあだ名が定着した超省エネ幼女。
 二人は大の仲良しにて、今日も一緒に下校中。

「あおり運転? とかいうのもヒドイよね。アレはキチクのしょぎょうだよ」

 ちょっとしたことで激高して、自分の車で相手の車にムチャな急制動をくり返す危険行為。一歩間違えれば自分も死ぬかもしれない行為に走る、いい歳をした大人たち。あまりにも理解不能な阿呆な行動。ミヨちゃんもコレには「イミがわかんない。運転めんきょって、あんな人でもとれるんだね。もっとムズかしいのかと思ってたよ」
 彼女には二人の兄がおり、長兄のヒロ兄は大学生。夏休みを利用して教習所の合宿に参加して自動車の運転免許を取得。
 二週間ほどもかかったことを知っていたミヨちゃん。だから免許をとるのはたいへんだと考えていたのだが……、どうやら違ったらしい。
 だってあんなイカレポンチどもでも、楽々とれるんだもの。

「ヒドイといえば、トラックのヤツも多いよね」

 右左折の際の巻き込み事故は後をたたない。
 運転席からちょうど死角になるらしいのだが、自分たちと同じぐらいの子どもが犠牲になるのは悲しいと、しょんぼりするミヨちゃん。もしも自分の大切な友だちとかが事故にあったらと考えると、不安のあまり、いまにも泣き出しそうになってしまう。
 そんな心優しき幼女の頭を、ヨシヨシと撫でて、慰めるヒニクちゃん。

 しばらくして、どうにか落ち着いたミヨちゃん。
 ふと、こんな疑問を口にした。

「そういえば、いねむりのヤツもよくあるけど……、あれって仕事中にウトウトしたからだよね」

 その通りだとうなづくヒニクちゃん。

「仕事中にいねむり、つまりサボりだよね? なのにどうして会社が怒られるの?」

 事故の背景には過酷な勤務実態とか、ムチャなタイムスケジュールとか、ドライバーへの尋常ではない負担とか、パワハラやら、もろもろが影響しているのだが、あいにくと幼女たちにはちょっとムズかしい。
 事故を起こした当人が一番悪い。だというのに会社がマスコミにボコボコにされている。
 コレをちょっと自分の身に置き換えてみるミヨちゃん。
 昨晩、少女マンガに夢中になってうっかり夜更かし。そのせいで授業中にいねむりをしてしまう。すると教頭先生からヨーコ先生が、こんこんとお説教をされてしまうハメに。
「うーん」とミヨちゃん、責任の所在について、おおいに悩む。

 で、どうしてミヨちゃんがこんな自動車事故の話題を下校中に口にしたのかというと。
 つい先日のこと。最寄りの高速道路のインター付近にてトラックの横転事故があったから。幸いなことに人的被害はなかったのだが、積荷が道路上に派手にバラまかれて、この対応が大騒ぎに。
 積荷は黄色いヒヨコたち。数えきれないほどのピヨピヨが一面に散乱。
 それらを掴まえようと右往左往する制服警官たち。
 悲惨だけどほのぼの、なんともシュールな映像がヘリコプターから中継されたのをミヨちゃんも見ていたから。

 思考の迷路にはまったミヨちゃん。うんうんとお悩み中。
 そんな親友の様子を見ながらヒニクちゃんがポツリ。

「ヒドイのにかぎって、なんの因果か、当事者は生き残る」

 食事時の前では空腹でイライラ、後では満腹でうとうと。
 逢魔が時には、人心がざわつくのか、気が急いて運転が荒くなるそう。
 夜には視界が狭まり注意力も散漫に。常に「かもしれない」運転を心がけて。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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