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218 ダダダ

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 ボタンがあれば押したくなるのが人情。
 だけど気軽に押せないボタンもある。
 例えば非常ボタンの類にイタズラをしては、絶対にダメ!
 バスの停車ボタンはタイミングがムズかしくて、だいたい先を越される。
 自動販売機のボタンはお金を入れないと反応してくれないし、そもそも適当に押したら、後で後悔するハメになる。
 そんな中にあって、子どもたちが比較的、気がねなく連打できるボタンがある。
 交差点の信号機のボタン。
 本当はダメなんだけど、なんとなく早く信号が切り替わるような気がして、つい連打。
 なにも子どもばかりの話ではない。
 いい歳をした大人も、たまにダダダとやっている。

 とある街のとある交差点にて、男の子たちがダダダとやっている。
 その姿をジト目で眺めていたのは、下校途中の二人の女の子。
 キャラメル色のくせっ毛のはしが、ぴょんとはねているミヨちゃん。背負っている真っ赤なランドセルの中身が今日は軽いので、いつもよりも足取りが軽い小学二年生。
 一緒に並んで、信号が赤から青に変わるのを待っていたのはヒニクちゃん。これはあだ名。本名をコヒニクミコという。一日平均百文字前後で過ごす極端に無口な子。お人形のように愛らしい見た目なのに、たまに口を開くとキツメのコメントがポロリ。いつからか本名をもじったあだ名がすっかり定着。現在へと至っている。

「たまにいるよね。エレベーターの閉まるボタンとか、やたらとカチカチする人」

 ホラー映画とかでも追い詰められた主人公が、「はやく、はやく」とかつぶやきながら、エレベーターのボタンを連打しているシーンがある。あれって、だいたい次のドッキリへの前振り。
 男の子たちが信号機のボタンを囲んで騒いでいるのを眺めながら、ミヨちゃんがそんなことを口にすると、ヒニクちゃんもコクンと首をたてに動かす。

 信号待ちをしていたのは小学生の子どもたちばかりではない。その場には高校生男子の二人組の姿もあった。
 すぐ側に立っていたこともあって、彼らの会話が自然と耳に伝わって来る。

「そういえば知ってるか? ここって魔の交差点とか云われてるらしいぞ」

 なんとも物騒なウワサが聞えてきた。
 思わずギョッとするミヨちゃん。
 息を殺し、彼らの会話に聞き耳を立てるも、どうやら発言をした高校生も詳しいことは知らないらしい。
 雨の夜に信号待ちをしていると女の幽霊に肩を掴まれるとか、道路に押し倒されるとか、どうにも安いオカルト話しか出てこなかった。

 やがて信号の色が青に変わり、歩き出す人たち。
 ヒニクちゃんたちも、左右の安全確認の後に、横断歩道をテクテク渡る。

「マの交差点かぁ。ちょっとこわいよねぇ」と言ったミヨちゃん。ちょっと小首をかしげながら「でもそんな話、これまで聞いたことなかったけど……、花とかも置いてないし」

 きょろきょろと周囲を見回すも、それらしい品はナシ。
 軽い接触事故とかならばともかく、この交差点にて人死にが出るほどの事故が起きたという話なんぞ、とんと聞いたことがない。
 近在のお年寄り連中に太いパイプを持つミヨちゃんは、街の事情通。危険な交差点の情報がアレば、とっくに自分の耳に入っているハズなのにと、ふしぎがっていた。
 横断歩道を渡り切り、しばらく歩いてから、ぽつりとヒニクちゃん。

「たぶん元ネタ、八百屋のご店主」

 いつも店先にて声を張っている八百屋の店主。奥さんも威勢がよくてとっても勝気。
 夫婦の丁々発止は地元では有名。商店街の名物のひとつ。あの交差点にて、
 煮え切らない男に女が逆プロポーズしたとか。たしかに男にとっては魔の交差点?
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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