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216 抑止力

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「おまたせー」

 チリンチリンと自転車のベルを鳴らしながら、手をふるのはチエミちゃん。
 放課後にカップル公園にて、ミヨちゃんらと待ち合わせをしていたのだ。

 合流の後にヤマダ宅へと向かう三人の幼女。
 一行を率いるは、ヤマダ家の三兄妹の末娘のミヨちゃん。これに親友のヒニクちゃんと自転車を手押しするチエミちゃんが続く。
 クラスの女子たちの間で静かなブームとなっている、「お友達のところにお呼ばれ」
 コンプリートを目論むチエミちゃん。
 着々と実績を重ねていたのだが、以前に、ミヨちゃんのところにお呼ばれした際には、まさかの二人の兄の友人らの来訪と被るという不測の事態によって、中断を余儀なくされてしまった。
 そのリベンジというわけである。

「この前はごめんね。今日はだいじょうぶだから。ちゃんとお兄ちゃんたちにも言ってあるし」

 同じ失敗はしないと胸をはるミヨちゃん。お客様をお迎えするために、お茶の用意や部屋の掃除もばっちり済ませてある。

 きゃいきゃい騒ぎながら目的地へと向かう三人。
 すると向こう側から、自転車に乗って警邏中のお巡りさんが近づいてきた。
 制服の姿を見たとたんに、急に口数が少なくなる幼女たち。次第に声も小さくなり、最後には完全に口をつぐんで息を止めるほど。
 ヘンな緊張感が漂う中、すぐ側を何ごともなく通り過ぎて行くお巡りさん。
 その姿が角を曲がって完全に見えなくなったところで、チエミちゃんが「ふぅ」と安堵の息を零す。
 これを合図に、一行を包んでいたピリピリしたムードが霧散する。

「なんだかねぇ……。べつに悪いことなんてしてないんだけど、どうしても顔がこわばっちゃうんだ」
「私も。パトカーのサイレンとか聞いたら、ドキリとしちゃう」

 国家権力を前にして、ビクビク、緊張してしまうというチエミちゃん。いかにも小市民らしい一般的な反応だ。さすがは偉大なる凡、ふつうだ。
 だけどミヨちゃんの場合は、ちょっと意味合いが違う。
 なにせ彼女は少女マンガ、二時間サスペンス、時代劇、の次に警察モノのドキュメント番組が好き。どちらかというとワクワクに近い感情。
 微妙にスレ違う両者の意識。
 だが些細なことなので、ゆるふわと会話が繋がっていく。
 若さゆえの柔軟性を、幼女たちが披露したところで、ヒニクちゃんの長らく閉じていた口が、ようやく開いた。

「抑止力とはそういうモノ」

 お巡りさんを見て、ビクッと反応するのは、心根のいい人。
 お巡りさんを見て、ビクリと怪しい動きをするのは、身に覚えのある人。
 お巡りさんを見て、平然としていられるのは、きっと大悪党。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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