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205 尾ヒレとツバサ

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 給食で残したパンをしばし放置。
 カチカチになったところを、大根おろし器にて、ゴシゴシ。
 即席のパン粉ができあがり。
 味は保証の限りではない。だが食べるのは自分たちではないので、気にしない。
 お手製パン粉をビニール袋に詰めて、近所の神社へと足を運んだのは二人の幼女。

 モフモフ大好きなのに、モフモフ類から蛇蝎(だかつ)のごとく、嫌われているミヨちゃん。当人はいたって心やさしき子なのに、謎の怪現象に悩まされ続けている。なお魚類、昆虫類、爬虫類系からは好かれる傾向にある小学二年生。
 一緒にいるのはヒニクちゃん。無駄口どころか必要最低限の会話から、更に削るという荒業を日々くり返している子。ヒドイときには二文字分しか言葉を発しなかったこともある。こちらはモフモフ類から無償の愛を注ぎまくられているが、当人が主に愛情を注ぐ対象が、仲良しのミヨちゃんとペットのゾウガメのポン太なので、現状、モフモフ類の片想いが続いている。

 神社の境内にたむろしているハトたち。
 ためしにミヨちゃんが、袋に手を突っ込んで、適当に掴んだパン粉を撒いてみる。
 ハトどもは、サッとコレを避けた。そして地面に落ちたパン粉に見向きもしない。群がるのは黒アリばかり。

「やっぱりダメか……」

 寂しそうにつぶやいたミヨちゃん。袋をヒニクちゃんに差し出す。
 受け取ったヒニクちゃんが、同じようにすると、ハトたちは我先にとパン粉に群がり、さながらバーゲンセールの修羅場のように。
 これにて、モノの良し悪しではなくて、撒く人によるということが明確化。
 わかってはいたが、改めて事実を眼前に突きつけられると、やっぱりへこむ。ミヨちゃん、ガックシ。
 仕方がないので、トボトボと境内の池の方へと向かう。
 うってかわって、こっちではビッチビチと激しい水音にて、コイたちから熱烈歓迎。魚面フィーバー。

「わたし……、サカナの目って、あんまりスキじゃない。あとヌメヌメした体も。さわるとクサいし」

 池の魚たちにエサやりと済ませたミヨちゃん。社の縁側によっこらせと腰かけ、本音を漏らす。「きっと人魚姫が王子と結ばれなかったのは、生ぐさいニオイが原因だよ」との珍説まで披露する。
 不覚にも、ちょっとあり得るかもとか思ってしまったヒニクちゃん。思わずうなづきそうになってしまった。

「あー、やっぱり私はトリの方がいいかなぁー」

 バサバサと翼を羽ばたかせ、飛び立つハトたちを見つめながら「トリになって飛んでみたい」とか言い出すミヨちゃん。
 大空を自由自在に飛ぶ。それは誰もが一度は夢見たことであろう。
 ウツウツした気分を吹き飛ばすかのように発せられた幼女の言葉。
 じっと耳を傾けていたヒニクちゃんが、ふいに動く。
 友達の袖を掴むと、コレを引っ張って、やや強引に立たせた。
 何ごとかとミヨちゃんが、ふしぎがっていると、さっきまで彼女がいたところに、ベチャリと白いモノが……。
 危ういところを救われたミヨちゃん。ヒニクちゃんに抱き着いて最大限の感謝の印を示す。するとおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「ひょっとしたら、コレが、人が空を飛べない理由なのかも」

 ハトやカラスのモノなら、まだガマンできるけど。
 さすがに人間のモノが降ってくるのは、ちょっとイヤすぎる。
 ダチョウが空を飛ばなくて、本当に良かったと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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