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200 うなぎ

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 ひとり二百円の軍資金を手に、商店街をぶらぶらしていたのは、三人の小学二年生の女の子たち。
 極端に無口な性質にて、一日平均百文字前後で過ごす、超省エネ幼女ヒニクちゃん。
 素直な性格にて、笑うとのぞく八重歯がお年寄りたちから大人気のミヨちゃん。
 容姿、能力、すべてが凡人ゆえに非凡となっているチエミちゃん。
 教室ではよくおしゃべりをする間柄だが、こうやって郊外で揃うのは珍しい。チエミちゃんの家のあるのは校区でも、かなり隅っこのほう。
 ミヨちゃんのところとは小学校を挟んで真逆に位置しているので、活動圏があまり被らないせいか、プライベートではほとんど顔を合わせる機会がない。
 それがどうして一緒にいるのかというと、この頃、クラスの女子の間では、互いの家にお友達を呼ぶのがちょっとしたブーム。
 ヒニクちゃんのところは、以前に学級新聞を製作するときに、お邪魔したことがあったチエミちゃん。でもミヨちゃんのところには行ったことがない。
 せっかくだから、わりとイケてるという大学生と高校生のお兄さんたちも見てみたいと、チエミちゃんが言い出し、ミヨちゃんがこれを快諾。
 放課後にカップル公園にて待ち合わせてから、ミヨちゃんの家へと向かったのだけど……。

 その日、ヤマダ家の様子がいつもと違っていた。
 玄関が脱ぎ散らかされたクツで埋め尽くされている。家の中には、やたらと野郎どもがゾロゾロ。
 大学生のヒロ兄、高校生のタカ兄、双方の友人らが期せずして、居揃ってしまった。
 総勢十名を超える若い男が集結。
 独特の男臭で満ちるヤマダ家。そんな野獣の群れの中に可憐な幼女が三人。
 これは危険だ! と考えたシスコンの二人の兄たちは、それぞれがおこづかいを出して、ミヨちゃんたちに二百円ずつを渡し、「すまないが、今日は外で遊んでくれ」と避難させたというわけ。

 すっかり予定が狂った三人は、せっかくの臨時収入につき、とりあえず駄菓子屋にて食糧を調達しようと決めた。

「なんだか、ゴメンね、チエミちゃん。こんどちゃんとしょうたいするから」
「ううん。気にしないで、ミヨちゃん。ソレにしても何だかスゴかったね。ひしめいていたよ」
「たまに友だちを連れてくることはあるけど、あそこまでいっぱいは、初めてかも」
「でも大学生と高校生って、ぜんぜんフンイキがちがうよね」

 つい先ほどヤマダ家で遭遇した出来事について、やいやい話している二人。そのすぐ隣にて静かに会話に耳を傾けているヒニクちゃん。
 その足がピタっととまる。
 視線の先には、軒先からもうもうと美味しそうな煙を漂わせている、ウナギ屋さん。
 古きよき頑固一徹の老店主が焼くウナギは天下一品。が、ちょいとお高めなので特別な日にしか食べられない。
 店先には『天然のいいのが入りました』との筆書きのチラシが貼ってある。

「ここのってオイシイよね。ホクホクしてて、口にいれたらホロリととろけちゃう。ウナギって、皮とかちょっと気持ち悪くてニガテだけど、このお店のは平気なんだ」とチエミちゃん。
「冷めてもオイシイよ。お弁当のやつを食べたことあるけど、ギュッとして、味がひきしまる? みたいな」とはミヨちゃん。

 しばし軒先にて旨味成分たっぷりの煙を堪能する幼女たちは、再び駄菓子屋に向けて歩き出す。いささか後ろ髪ひかれるが、手の中の二百円ではどうしようもない。
 大きくなって働けるようになったら、一緒に来ようなどと相談しながら、先をゆく。
 すると、ふと、ミヨちゃんがこんなことを言い出した。

「飼ってたウナギが、逃げ出しちゃって、これを掴まえたら……、天然になるのかな」

 生まれも育ちも野良は、当然のごとく天然。
 箱入り娘が外の世界に飛び出したら、果たしてどうなる?
 突如として浮上した難問。
 天然と養殖では値段に天と地ほどもの差があることを知るチエミちゃん。もしかしてボロ儲けできるかもとか考えて、ちょっと興奮。
 するとおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「養殖も元は天然」

 天然稚魚を大量に捕獲して、せっせと育てるウナギの養殖。
 食べ比べたら違いがわかるらしいけど、そんなの一般庶民にはムリ。
 完全養殖の研究も進んでいるというけれど、まだまだ道は遠い。がんばって!
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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