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199 男心
しおりを挟む歳をとると、何故だか指先がぷるぷる、意味もなくふるえるようになる。
筋力の低下だとか、神経的なモノだとか、そんなことはどうでもいい。
問題は、それが初老にさしかかった煮干しみたいな歯医者さんだということ。
患者にとっては、恐怖以外の何モノでもない。
しかし逃げ出すことはかなわない。
なにせ助手が、力士あがりかと見まがうばかりの巨漢。
のオバさん。
オッパイか脂肪かわからない圧にて、ムギュっと抑えつけられたら、たとえ土佐犬のチャンピオンでも逃げ出せないであろう。
こんな風に云われたら、ぼったくりのヤブ医者のように思われるかもしれないが、腕はいい。治療に入ると、とたんに腕のふるえはピタリと止まる。施術も丁寧。
悪いのは現場の雰囲気だけだ。
そんな医者と助手がいる歯科医院。
近在の住民らの大半が、お世話になったことのあるところが、この頃、ちょっとピンチかも。
駅周辺を中心にして、ポコポコ増えるライバル。
新設された建物はピカピカ、おしゃれな内装、大きな水槽に熱帯魚が泳いでいたり、観葉植物がワサワサと置かれていたり、託児所みたいに小さな子どもらが遊べるスペースまで。
一度通い始めたら、長い付き合いになることが多い歯医者。
顧客として、小さな頃からツバをつけておこうという算段。またお子さま相手に結果を残せれば、おのずとその母親や父親、口コミにて評判が独り歩きで、経営はらくらくウハウハでうまうま。
かと思えば、キレイどころを揃えて、男性客を積極的にとり込んでいるところもあったり、イケメンにて女性客をとり込んだり、最新技術をいち早く導入したり。
とにかく競争が激化。
このままでは、ちょっと心配かも……、と言い出したのは下校途中のミヨちゃん。歯医者が大好きという、とっても奇特な小学二年生。馴染みの店なので、ぜひともごひいきにしてあげたいのだが、キチンと歯磨きをしているので、お世話になる機会が少ないのが、ムズかしいところ。
「このままだと先生のところがツブれちゃう。駅前のビルの中にできた新しいピンクのところなんて、バインバインの女の先生なんだよ。メガネで白衣でアレはズルいよ。うちのタカ兄もこの前、行ってハナの下をのばして帰ってきたし。このままだと若い男、ぜんぶ、根こそぎだよ」
外装も内装も看板の文字も淡いピンク色。受付以下、全員が若い女性にて、ピンクの可愛い制服を着用。そして医者はミヨちゃんの言ったとおりの桃色人物。
夜の営業時間になると、場所柄のせいか、たまに酔っ払いが、その手のお店と勘違いして、入って来ることもあるという。そしてしっかり歯垢除去とかされて送り出される。
立地、その他もろもろ、圧倒的戦力差を前にして、もはや風前の灯。世間に吹く風は冷たい。こうやって時代は非情にも古きを捨て去り、新しいモノに心をうつしていくのか。
「そのうち、おじいちゃんたちもとられちゃうよ。みんなけっこうエッチだから」
心優しきミヨちゃんの心配がピークに達したところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「心配いらない。男心は女が考える以上に天邪鬼」
下心マンマンの男ほど、女の前では格好をつけたがる。
だから総入れ歯の老人とかは、女の園にかえって気後れしちゃう。
男には女の人には見せたくない顔というのがあると思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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