上 下
191 / 1,003

191 やめられない

しおりを挟む
 
 切り分けられたスイカを前にして、勢いよくカブリついているのは二人の男。
 ヤマダヒロ、大学生、末の妹をこよなく愛する。弟に関しては、わりとどうでもいい、ヤマダ家の長男。現在、研究職を目指して、マジメに学生中。
 ヤマダタカ、高校生、末の妹をこよなく愛する。兄に関しては、心底どうでもいい、ヤマダ家の次男。将来については、まだ未定。
 そんな二人が競い合うようにして、スイカを貪っているのは、彼らが愛してやまない妹のミヨが発した、何気ないひと言。「男の人のスイカの食べっぷりって、見ているとちょっと気持ちいいよね」
 これを真に受けた大学生と高校生が、妹にいいところを見せようと、ムダに張り合っているというわけ。

 そんな阿呆どもを尻目に、黙々とスイカと対峙しているのはヒニクちゃん。ミヨちゃんのところに遊びにきていたところを、相伴に与かったのだが……。
 ひたすらスプーンにてタネを、せっせと発掘している。
 彼女はゆでタマゴの薄皮とかが、ちょろっと残っているのが許せないタイプ。焼き魚とかでも骨と身を丁寧に分けてから食べる派。そのくせミカンとかは、白い筋ごとお構いなしという、大胆なのか繊細なのか、判断に困る小学二年生。
 隣にてムシャムシャとみずみずしい甘味を頬張っているミヨちゃん。
 こちらは男兄弟の中で育ったせいか、わりと豪快にスイカにカブリついては、器用にプププと種マシンガンを発射。種が飛び散らないようにと、床の上には古新聞が広げられてあるから、遠慮しない。普段よりも少しだけ大胆な幼女。

「スイカの喰い方でも、ずいぶんと性格の差がでるもんだねぇ」
「本当に」

 子どもらの様子を眺めながら、ちょっと呆れ顔のミヨちゃんのおばあちゃんと、お母さん。
 スイカを囲んでの賑やかな時間が、しばし続く。
 ヒニクちゃんがようやく下準備を終えて、実食にうつる頃。早々に自分の分をやっつけたミヨちゃん。ベタベタの口周りや手を濡れタオルで拭いているとおばあちゃんが、こんなことを言い出した。

「おや、ミヨは食べ方がちょっと変わったねぇ。昔はカブトムシみたいに白いところまで、カジってたのに」

 たしかに小さい頃には、あのガリガリした歯ごたえが妙に楽しくって、延々とスイカの白い部分をカジっていた時期がミヨちゃんにもあった。だが今はもう、小学二年生。だから「おしまい」と、ツンとお澄まし。

「でもアイスのフタは、べろべろ舐めるじゃないか」
「ケーキのヤツとアレはしかたがないもん」

 おばあちゃんに揶揄われて、ちょっとムクれる孫娘。
 ちなみにケーキのヤツとは型崩れ防止のために巻かれている透明フィルムのこと。
 阿呆な兄らが大玉スイカの半分を二人で平らげて、苦しさのあまりウンウンと転がり、祖母と孫娘がきゃっきゃと戯れ、ミヨちゃんのお母さんがそろそろ片づけを始めようかと腰を上げたところで、ちょうどスイカを食べ終えたヒニクちゃん。
 手を合わせてごちそうさまをした後に、おもうろにその口を開いた。

「アイスのフタを人前で舐めれるのは、子どもの特権」

 お茶碗に残ったご飯粒をキレイに食べるのは、とってもいいこと。
 魚の身をキレイに食べることも、とってもいいこと。
 アイスのフタもケーキのフィルムも、やってることは同じだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...