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しおりを挟む商店街にある酒屋は、立ち飲み屋も兼任しているので、平日の昼間からでも、わりとほろ酔いどもがたむろしている。
このほろ酔い加減が肝。もしも酔って暴れたり、周囲に迷惑をかけたりしようものならば、たちまち批難轟々。最悪、お店が商店街より締め出されてしまうかもしれない。
だから店側も客側も、互いに節度を保ってお酒を楽しんでいる。
そんな酒屋の前に、ちょっと前から縁台が置かれるように。
陽気の下にて、一杯ひっかけつつ、将棋を指すためのモノ。
対局する二人も、見物客らも基本、ほろ酔い。よって指し手はかなりマズい。が、なんとなく楽しい。店主がダーツバーとか、ゲームバーとかを知って、取り入れてみたのだが、客の評判は上々。なお、勝った方がおごってもらうとかいう、賭け事は禁止。せいぜい、ツマミのスルメの足を一本、拝借ぐらい。
そんな店先にて、焼き鳥をかじりながら対局を眺める輪に加わっていたのは、二人の女の子。
キャラメル色のくせっ毛と笑うとのぞく八重歯が特徴のミヨちゃん。
見た目はお人形さんみたいに愛らしいのに地蔵の化身のような能面女子のヒニクちゃん。
幼女らの手にある焼き鳥は、ミヨちゃんの顔見知りの老酔客からのもらいモノ。
将棋にはあまり詳しくないけど、パチリパチリと鳴る駒の音は、わりと気に入っているミヨちゃん。周囲の見物客らから、いろいろと教えてもらいながらの観戦。
ヒニクちゃんは、焼いたネギの甘味と、鶏肉の弾力に集中。ヘタクソ同士の泥試合には興味なし。
現在、対局しているのは「のんべえ」「ドンツキ」とみんなから呼ばれている酔客たち。
酒飲みだから「のんべえ」は、なんとなく意味がわかるのだが、「ドンツキ」の意味がわからないミヨちゃん。ちょいと隣のおじいちゃんに訊いてみる。
ケタケタ笑いにて返ってきたのは、「依存症で病院のやっかいになったことがあるから。行きつくところ、すなわち突き当りの『ドンツキ』まで行ったからさ」という答え。
世に云うところのアルコール依存症で、身を持ち崩したことがあるそうな。完全にヤメることは、ついに適わなかったものの、セルフコントロールには成功した模様。
ヒドイケースだと、体を壊そうがお構いなしに、死ぬまで飲酒を続けるというから、ある意味、治療が成功したとも言えなくもない。
「のんべえも大概だが、ドンツキの奴は根っからの酒飲みよ。自制しているだけ大したもんさ。昔はあんなのがゴロゴロいたもんよ」
「うーん、お酒ってそんなにオイシイの? まえにちょっとなめたけど、なんかニガかった」
「こればっかしは、合う合わないがあるからなぁ。ミヨちゃんが酒の良さがわかるには、もうちっとばかし、大きくなってからさ」
ミヨちゃんが老酔客相手にいろいろと情報を引き出している。その姿が、ちょっとスナックで男どもを手玉にとる夜蝶のように見えたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「二人の差は、病院に行ったかどうかだけ」
依存症という言葉の響きから、ドンツキさんの方がのんべえさんよりも、
重症のように思えるけれど。病院代すらもが酒代に変ってしまっている、
のんべえさんの方が、ずっとダメなような気がすると思うの
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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