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185 ローン
しおりを挟むここのところ、ずっと雨模様が続いていたせいか、どこか気分もウツウツしていたけれども、ようやく晴れまが戻る。
心なしかウキウキした足どりにて下校をしていたのは二人の女の子。
はっ、ほっ、と声を発しながら、小さな水たまりを飛び越えるたびに、キャメル色のくせっ毛のはしが一緒になってピョンとはねているミヨちゃん。今日はちょっと真っ赤なランドセルの中身が軽いせいか、動きが軽快な小学二年生。
のらりくらりと水たまりをかわしつつ、つかず離れずにて、後をついていくのはヒニクちゃん。こちらはリスクを冒して小池越えのショートカットを狙うよりも、急がば回れと堅実に攻め。手堅く冒険しない中堅どころのゴルファーのような歩みをみせる。
先を行くミヨちゃんの足が、ふと、止まった。
視線の先には屋根に青いビニールシートを被せてあるお宅。
台風だったり、地震だったり、老朽化だったり。ガタがきて屋根がダメになって、雨漏りするさいの応急処置。
「マンガとかドラマだと、雨もりって笑い話だけど、リアルだとかなりつらいんだって」とミヨちゃん。
漏れる量や被害の大小の関係なしに、雨が降るたびにビクビクすることになる。放置してもかってに治るハズもなく、ジワジワと確実に被害が広がっていく。それは家だけでなく、そこに住む人たちの心をも蝕む。
ちょっと曇っただけで、気分まで曇る。雨のたびに気落ちし、晴れたら晴れたで、次の雨に怯える。ようは精神衛生上において、極めてよろしくないということ。
ミヨちゃんがやたらと雨漏りに詳しいのは、実際にその被害に苦しんでいる知り合いがいるから。
「だけど家の屋根を直すのって、すっごいお金がかかるの。だからトヅカのおばあちゃん、銀行に行ったんだけど、ダメだったらしいの」
トヅカさん、わりと大きな家に住んでいる老婦人。持ってる土地にて駐車場とかしながら、慎ましやかに暮らしている。
定期預金だとか、保険を解約すれば、屋根の修繕費用ぐらい捻出できるが、とりあえず銀行にローンの相談。で、けんもほろろ。
ちょっと前まで、やれアパートかマンションでも建てませんか? ご融資しますよ。と口やかましいぐらいに、家へと御用聞きに押しかけてきたくせに、いざ、こちらが借りてやろうとなったら、逆につっぱねられた。
「おかげでトヅカのおばあちゃん、カンカンなの。もちろん雨もりはそのまま。放っておいたら、家中カビだらけになって体に悪いよ」
借りろと言ったともったら、貸さないとか、よくわかんないとミヨちゃん。心優しい幼女の横顔が、知り合いの老婆の身を案じて憂いを帯びる。
するとおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「かつての銀行は人と企業と市場を育てていた。でもいまは……」
審査が厳しく、貸し渋っているときほど、経営がまともで安定している。
審査が甘くて、愛想がいいときほど、経営状況が芳しくない。
客や取引先をやたらと増やそうとしているところは、要注意だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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