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179 べんちゃら

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「生涯現役、シニア世代の求人が増えている」
「元気にぽっくり、寝たきりなんてもったいない」
「お年寄りの知識や経験を、次の時代へと」

 テレビに雑誌、新聞にインターネット、そこかしこにて、やたらと老人を礼賛する文言が飛び交っている。
 充実した医療制度などのおかげか、社会が安定しているおかげか、高齢化が加速していく流れにて、お年寄りという概念を根本的に改めようという風潮が、高まりつつある今日この頃。
 かつては六十歳で仕事を辞めて、あとは悠々自適な老後を楽しむというのが一般的であったのに、会社の定年を延長したり廃止したり、退職後も引き続き会社にて仕事に従事したり、別の会社に勤めたり。
 男女の関係なく健康志向も高まり、若い連中がコンビニ弁当やカップラーメンで細々と空腹を満たしているのを尻目に、もりもりと肉を喰らい、サプリメントを飲み、体調管理に努める。
 七十でフルマラソン、八十でトライアスロン、はては九十で最高峰へ挑戦するなんて猛者も少なくない。
 年寄りは、のんびり縁側にてネコを抱き日向ぼっこという、時代ではなくなった。

 そんな長寿大国にある、とある街の片隅にて、テクテクと並んで歩いていたのは二人の女の子。
 下校途中に土手沿いの道を歩いていると、すれ違ったのは健脚の老人ランナー。見た目はシシャモの干物みたいなのに、その足取りは軽い。
 知り合いだったのか、手を上げて軽く挨拶をしていたのはミヨちゃん。ちょっと愛想が悪いけどれも、これもペースを乱さないようにとの気遣い。
 それがわかっているのか、老人も同様に手をあげただけで、とくに言葉を発することもなく、駆け抜けて行ってしまった。
 あっというまに遠ざかる背中。
 風のようなその速さに、ヒニクちゃんも目を白黒。

「知り合いのおじいちゃんやおばあちゃんの中にも、ジョギングをしている人がけっこういるよ。知ってる? あのカラフルなクツって、すっごい高いの」

 ミヨちゃんの言葉に、ヒニクちゃん、更に目をパチクリ。
 マラソンやジョギングといえば走る。それこそひたすらに走りまくる。そしてクツの底というものは擦り減るモノ。つまり走ることを趣味としている彼らは、ガリガリ削れるモノに大金をかけていることになる。
 言うなれば、丸めて筒状にした一万円札を、地面に押し当てて引きずっているのと同じこと。
 幼女の金銭感覚からすれば、とんでもない暴挙である。
 二万も三万もするクツじゃなくって、商店街の雑貨屋で売ってる九百八十円のスニーカーでいいじゃない。クッション性がぜんぜん違う? だったら中敷きでもひけよ。とか思ってしまうヒニクちゃん。

「そういえば、このごろ何だか、やたらとケンコウをあつかったテレビが多いんだよねぇ」

 ミヨちゃんがぽつり。
 これを受けてヒニクちゃんの口が、おもむろに開いた。

「政府の陰謀説に一票」

 みなさん、まだまだ元気。まだまだやれる。若い者なんかには負けてない。
 これって年寄り連中に対する、政治家のべんちゃらだとばかり考えていたけれど。
 年金支給対象年齢を引き上げる、深謀遠慮だったら、ちょっと怖いと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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