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178 廃棄
しおりを挟むゴミ捨て場には、いろんなモノが転がっている。
分別が声高に叫ばれるようになってからは、かつてほど混沌とした有様ではなくなったが、それでもヤンチャな子どもらにとっては、格好の遊び場。
ここは堤防沿いに設けられた、ちょっと広めのゴミ捨て場。
不法投棄が社会問題化し、この近辺でも他人事ではなくなった。そこで解決策として登場したのがこの場所。どうせ口やかましく取り締まったところで、イタチごっこ。ならば処理しやすいように、一か所にまとめてしまおうと行政は考えた。
今日は家電の回収日だったらしく、好奇心旺盛な子らにとっては、それらはまるで宝の山のように映ったみたい。
ガチャガチャとボタンを押したり、冷蔵庫のフタをパタパタしたり、なかには実験と称して、分解ならぬ破壊活動に精を出す子までいる。
ガラスの破片やら、缶詰のギザギザ、プラスチックの割れたパーツ、鉄のパイプ、用途不明の金属の塊……。
怪しくも危険に満ちた中を、気にせず動き回る男の子らを尻目に、ブンブンと拾ったゴルフのドライバーを、フルスイングしていたのはヒニクちゃん。
自分の背丈と同じぐらいの長さもあるクラブを、器用に振り回しては、弧を描き、風を切る。でもあくまで振るだけ。うっかり石や空き缶なんかを打つと、危ないので。
そんな友達の雄姿にパチパチ手を叩いていたのはミヨちゃん。
昔はゴルフなんて、金持ちのおっさんのスポーツぐらいの認識だったが、最近の可愛くてイケてる女子プロたちや、カッコよくてイケてる若手の男子プロの登場によって、にわかに認識を改める。
細かいルールは知らないが、お気に入りの選手らの動向だけはチェックしている小学二年生。
休日にて、二人でぶらぶらしていたら、男の子たちの歓声が耳に届く。
それに誘われてこの場所に足を踏み入れる。
前々からやんちゃ坊主どもが、遊び場にしていたのは知っていたが、女の子にはあまり縁のあるところじゃないので、無視していたのだが……。
ヒニクちゃん指導のもと、ゴルフのクラブを握ってみるミヨちゃん。
だが大人用のソレは、幼女の手にあまる。持っているだけならばともかく、見よう見まねにてブンと振り回せば、たちまち遠心力にてグラりと態勢を崩して、尻もちをついてしまう。何度か挑戦してみたが、どうやってもヒニクちゃんのようにフォームが安定しない。
それもそのはず、彼女は家で飼っているゾウガメのポン太を、幼少期よりひょいひょい担いでいたおかげで、お人形さんのような華奢な見た目に反して、とってもチカラ持ち。
基礎となる体力の土台が違う。
そのことを思い出して、ミヨちゃん、早々にギブアップ。
「どうやら私には、まだ、ちょっとだけ早かったみたいだね」
差し出されたクラブを受け取ったヒニクちゃん。コレを付近にあった廃タイヤに立てかけると、中ほどをズバっと蹴って踏み抜く。
クラブはグニャリとくの字に折れ曲がる。
どうしてこんなことをしたのかというと、ソレはあちらでバカ騒ぎをしている男子たちのせい。彼女たちが拾ってきたクラブを振っているのを、遠目にて物欲しそうに見ていた。もしもこのままゴミ捨て場に戻せば、彼らはきっとコレを持ちだすだろう。ただし、振り回すだけでは飽き足らずに、ついには小石などをボールに見立てて、打ち始めるのが目に見えている。
これは危ない。飛んでいったモノが、うっかり誰かの頭にでも当たったら、大ケガしちゃう。それを防ぐための予防処置なのである。
目論見がハズれて、悔しそうな顔をしている男子らを横目に、ポイッとゴミ捨て場に折れたクラブを戻すヒニクちゃん。
そろそろお暇しようかというときになって、ミヨちゃんが、ふと、目を留めたのはガラスの灰皿。
重たい、デカい、古くさい、いまどき田舎の旅館のロビーでも置いてないような、分厚いガラスの灰皿。
「あー、コレって、ドラマでよく見るヤツだ。ほら? 頭をガツンとやるヤツ」
ミヨちゃんが言ったのは、サスペンスドラマとかで犯人が、手近にあったガラスの灰皿で突発的に相手を殴り殺してしまうシーンのこと。
「でも、今のドラマじゃあ、あんまり見かけないよねぇ」とミヨちゃんが口にしたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「喫煙率の低下が原因」
喫煙者って、自分たちが税金をいっぱい払ってやってるみたいなことを、
よく口にするけれど。治療費や環境整備なんかを考えると、迷惑料としても、
ぜんぜん足りてないと思うの。せめて子どもと妊婦さんの前では遠慮して頂戴。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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