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169 続一念

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「へい、ミヨー」

 下校途中の二人の女の子らに声をかけてきたのは、マウンテンバイクに跨った外国人のおっさん。近所の教会とされている一軒家に住んでいる神父さん。異教の祭りでもハッスルしちゃう陽気な人。
 お祭りを仕切ってるのは、たいていが老人たち。そちらに強固なパイプを持つミヨちゃんは、その御縁にて彼とも顔見知り。
 ジャッと後輪のタイヤを滑らせて、ドリフト気味に自転車を止めての、ドヤ顔。
 普通はイラっとしそうなところを、無邪気に「すごい」と喜んでみせるミヨちゃん。
 これが大人たちに受けている幼女の秘密の一端。スルリと相手の心の隙間に入り込んでは、ハートを盗みだす女怪盗ミヨ。その魅惑の笑みに、神父さんもとっくに篭絡済み。

 自転車を押して、幼女二人と並んで土手の遊歩道を歩く神父。
 そこでミヨちゃんが話題にしたのは、ちょっと前に放送されていたある番組のこと。
 科学者やら学者やら霊能者やら占い師、その道の専門家、宗教関係者などが集まっての大討論会。霊や魂の有無から、心霊現象、はては天国などについて、それはもう、激しいやりとり。「うそつき」「インチキ」呼ばわりされて、怒号が飛び交い、後半はほとんど野次合戦へ。
 そもそも見えない人間に、見える人間が、いくら力説したところで説得力はなく、数値や現象が証明されることを第一に考えている相手に、感覚的なことを話したところで通じるわけがない。
 まるで水と油のような間柄の人々が、一同に介したところで、話がまとまるワケもなく。
 もとよりこの手の番組で、バシッと解決した試しがない。
 最後にはプロレスの場外乱闘の様相をていしたところで、番組終了。

「神父さんは、やっぱり信じてるの?」

 なかなか聞きにくいことを、ズバリと口にするミヨちゃん。子どもは時に、その穢れを知らぬ瞳にて、物事の核心を突く。
 これを受けて、どう答えるかと様子を伺っているヒニクちゃん。
 しばらく考え込んでいた神父さんは、「信じてるけど、いるかどうかはわかんないなぁ。だって、オレ、神さまにもお化けにも会ったことないし」

 まさかの、ぶっちゃけに、ミヨちゃんとヒニクちゃん、思わずズッコケた。

「そんなのでいいの」と心配するミヨちゃん。
「いいの、いいの。子ども相手にウソつくほうが、よっぽど罪深い」神父さんは言い切った。「ハハハハ、そもそもヘブンなんて、あったらいいな、ぐらいでいいんだよ。大切なのは毎日、ハッピーに過ごすことだからねえ」

 なんとなく良いこと言ったように神父さんが話をまとめたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「宇宙は人がいるから宇宙、らしい」

 だったら神さまも人がいるから、神さまなのかも。
 数十億もの人たちが信じている宗教。内容のぜひはともかくとして、
 これで、もし何もなかったら、あとはもう笑うしかないと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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