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158 水のチカラ

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 公園内にある砂場が見えるベンチにて、集うが五人の乙女たち。
 ファッション一家に育ち、自身もその分野に造詣が深い、オシャレ番長のアイちゃん。
 バツグンの運動神経と美脚を武器に、グラウンドを駆けるサッカー少女のリョウコちゃん。
 容姿、能力、その他もろもろが平均値。すべての主軸となる偉大なる凡、チエミちゃん。
 にぱっと微笑むとちらりとのぞく八重歯。お年寄りキラーの異名を持つ魔性の幼女ミヨちゃん。
 そんな彼女に影のごとく寄り添うは、一日平均百文字前後で過ごす極端に無口なヒニクちゃん。

 クラスでは一緒にいる機会も多いのだが、学外でこのメンバーが揃うのは珍しい。
 習い事や各々の付き合いなど、みな放課後は何かと忙しいのだ。
 その忙しい合間に集ったのは、劇団「ちびっこ」の公演を見るため。
 不定期にて砂場にて演じられる、迫真のママゴト。
 便座の上げ下ろしといった家庭の些細な問題から、果ては痛烈な社会風刺へと展開することもあり、それはもはや舞台の域に達している。
 演じている子らは、劇団に所属しているとの噂もちらほら。あまりの出来の良さに、口コミで評判が広まり、近頃では彼らが砂場に姿を現すと、周囲には遠巻きにする見物客が増えつつある。

 ミヨちゃんとヒニクちゃんは、わりと古株の見物客。
 教室でこの話をしていると、そこにリョウコちゃんが加わった。小さな弟がいて、自分も練習にて公園を利用する機会の多い彼女も、何度か目にしていたのである。

「あれって、スゴいよな。ウチの弟といっしょに、つい見入っちまったよ」

 リョウコちゃんが見かけたときは、夫婦ゲンカのシーンだったらしく、奥さん役の子のビンタにて、夫役の子がアクション俳優のごとく、くるくる回転して派手に砂場に倒れていたという。全身をつかった派手な動きを、身振り手振りで話していると、そこに「どうしたの?」「なんの話をしてるの」とアイちゃんとチエミちゃんが話の輪に加わる。
 で、二人も「なんだか面白そう」と興味を持ったというわけ。

 その日の劇団「ちびっこ」の作品は、かなり壮大な物語であった。
 外国で発生した大地震の余波にて、津波が発生。
 これに襲われた海沿いの町。未曾有の災害を前にして、人の真価が試される。
 すっかり冷めきっていた仮面夫婦が、数々の困難を前にして、互いに手をとり、たまに反発なんかもしながら、再び絆を取り戻す。
 たった三人の演者にて行われる寸劇なのに、観ている者らの目には、確かに津波の中を逃げ惑う群衆の姿が見えたような気がした。
 心と体に傷を負い、もはや立ち上がることもかなわない。無力感に苛まれた夫の頭を、そっと胸元に抱き寄せる妻。まるで聖母のごときその頬を、ひと筋の涙が流れ落ちた。

 気がつけば観衆の中に、すすり泣く声が……。
 アイちゃん、ハンカチにて目頭を押さえている。リョウコちゃんは服の裾でゴシゴシと涙をぬぐう。チエミちゃんとミヨちゃんは「えぐえぐ」と嗚咽。
 一人、静かなヒニクちゃんは、ぽつりと一言。

「水のチカラはすごい」

 例えどれほど高く頑強な壁があろうとも、たくさん集まれば、抗うすべはない。
 見えるモノ、見えないモノ、ありとあらゆるモノを流し壊してしまう。
 そしてたった一粒ですら、ときに歴史を動かすんだから、本当に凄いと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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