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135 知育

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 子どもたちからの人気がダントツで低い授業。
 それは算数。九九を覚えるのはたいへん。足したり引いたり割ったり掛けたりと、とにかく忙しい。

「このケーキを三等分して一と三分の二、一と三分の一を作りましょう 」

 算数の授業で、ヨーコ先生がケーキを題材にして、生徒たちに分数を教えている。
 分子と分母が目まぐるしく変化する数式。
 わかりやすい例にて、子どもたちに説明しようと奮闘する三十路手前の女教師。現在、彼氏募集中。
 だけど彼女が熱心になればなるほど、子どもたちの頭の中はハテナで一杯。
 いくら、そういうルールで計算する数式だからと言われたところで、ハイ、そうですかとうなづけるわけもなく。
 次第に頭の中で累積していく何故、ナニ、どうして? これが許容量を越えたとき、当人の中に算数に対する苦手意識が根づいてしまう。

 今後の算数人生を左右する、かもしれない危険性を孕んだ分数の計算問題のプリント。
 それを相手に格闘していたのは、生来の性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
 問題を解いては、計算の間違いに気づいてイライラしながら、消しゴムでぐりぐり。そのたびにキャラメル色のくせっ毛のはしがピコピコゆれる。さしもの温厚な彼女も、この作業の繰り返しに、いささかウンザリ気味。
 そんなミヨちゃんの隣の席で、黙々と問題に取り組んでいたのは、肩口で切り揃えた黒髪がサラサラのヒニクちゃん。いろいろあってこんな愛称で落ち着いているが、当人はまったく気にしていない。
 こちらはミヨちゃんのこと以外には、わりとドライにつき、数学の理屈や道理はともかく、使えるモノは何でも利用する派。
 いちいち数式の意味などを深く考えることもなく、偉大な先人たちが残してくれた知恵をためらうこともなく活用するので、算数も無難にこなしていた。

 子どもたちが、算数に対して、複雑な想いを抱えながら取り組む。
 静まり返った教室に、エンピツと机の間に挟まれたプリントがコツコツと音を奏でる。
 遅々として進まない分数の計算問題に業を煮やしたミヨちゃん。思わず小声でつぶやく。

「算数が大切なのは、なんとなくわかるけど。これは大人になってから、役に立つのかなぁ」

 花の蕾のような、愛らしい口から零れ落ちた愚痴。
 それは算数を学んだことがある者ならば、誰もが一度は必ず抱いたであろう素朴な疑問。これを耳にして、おもむろにヒニクちゃんが、その閉じていた口を開く。

「教育とは、残りカス」

 学んだことがすべて忘れられた後に残る、わずかな何か。
 それこそが身についた知識であり、教育の結実。
 ちなみに学校は、無知が無能に無用を詰め込むところらしい。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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