134 / 1,003
134 コンピューター
しおりを挟む世界に誇る高性能なスーパーコンピューターを有し、様々な研究分野で輝かしい功績をあげている施設。
そこに招かれて社会科見学へとやって来た子どもたち。
広大な敷地内にそびえ立つ巨大な建築物は、白を基調とした色で統一されており、まるでオシャレな美術館を彷彿とさせる佇まい。
それを間近にして、遠足気分ではしゃぐ子どもたちであったが、一歩、施設内へと足を踏み入れたとたんに、仁王像のように屈強な警備員たちの厳しい視線に出迎えられて、すっかり萎縮しておとなしくなる。
係の方の案内に従って、何重にも施されたセキュリティゲートを潜りぬけるにいたって、この場所が厳重に守られた難攻不落の要塞であることを知る子どもたち。
施設内を行き交う研究員たちは、みな染みひとつないパリっとした白衣に身を包み、一分一秒を惜しむかのように、黙々と己の作業に取り組んでいる。
その様子を子どもたちに見せながら案内係の人が、これらの研究がいかに世界に冠たるものであるかを得意げに説明してくれる。だが、あいにくと幼児たちにはチンプンカンプンであった。
そんな中にあって、ひたすら「すごいすごい」と驚嘆の声を連発していたのが、性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
もっとも彼女の関心事は、この施設や研究の内容というよりかは、先ほど見かけた女性研究員。ヒールの音をカツカツ鳴らしながら、白衣の裾をひるがえし颯爽と歩く姿に、幼心はガッチリわし掴み。
「……カッコイイ。できる女って感じがするね」
ミヨちゃんが声をかけたのは、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに警戒されているヒニクちゃん。
ちなみに彼女の関心事は、のちほど施設の方からお土産として貰えるはずの、記念のクリアファイルとボールペンであった。
そうこうするうちに、各々の思惑を抱えたまま社会科見学は終盤を向かえ、ついにこの施設が誇る高性能なスーパーコンピューターを設置した部屋へと、子どもたちは案内される。
外気よりもかなりヒンヤリとした空調。部屋一面にずらりと陳列された、いくつもの大きな棚のような物体。
すべてコンピューターであると案内係の人に説明されて、処理速度が一秒間に10億だの、とんでもない演算能力だのを教えてもらい、ただただ驚くばかりの子どもたち。
カシャカシャとせわしない音を立てながら、働き続けるスーパーコンピューター。SFちっくな光景に、ミヨちゃんあんぐり。
やがて少し落ち着いたミヨちゃんが、タメ息まじりにつぶやく。
「コンピューターってスゴすぎ……。これじゃあ人は何をやってもかなわないかも」
自分の算数の成績をかんがみながら、人と機械のチカラの差をまざまざと見せつけられて、軽くへこむミヨちゃん。
しかしそこで、おもむろにヒニクちゃんが閉じていたその口を開く。
「勝てるモノ、ある」
この世でもっとも速いのは、コンピューターの処理能力でもなければ
音でも光でもない。それは何かを成すたびに、ポコンと湧く人の後悔。
あまりにも速すぎて、何人たりとも避けられないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる