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123 ポリシー
しおりを挟む卒業式を間近に控えていた頃に、市内のとある小学校で騒動が持ち上がる。
それは卒業式に際しての国歌斉唱についての是非。
校長は、式の参加者が全員そろって国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを提案し、おおむね了承されるが、この案に一部の教師たちが反発を示す。
事態の沈静化を図るために、何度か話し合いの場が設けられるが、互いにそれぞれの言い分があり、法律がどうの、主義がどうのなどと、議論はどこまでいっても平行線。
なにせ思想の対立というモノは、水と油のような関係。ひとまとめにしようとするのが、どだい無理な話。
結局、話し合いはもの別れに終わり、混迷の度合いを深めただけであった。
この学校側のゴタゴタを目の当たりにした子どもたちは、みな困惑の表情を浮かべる。
なぜなら子どもたちにしてみれば、国旗だの国歌斉唱だの、ましてや全員起立などの問題は、どうでもいいことであったから。
卒業生にしてみれば、晴れの舞台を気持ち良く送り出してもらいたいだけ。
在校生にしても、卒業式をつつがなく済ませて、与えられた大役を無事にやり遂げたいだけ。
それなのに肝心の大人たちが、なにやらモメている。
子どもたちからすれば、大人のゴタゴタを学校の行事に持ち込まれて、迷惑以外の何ものでもなかった。
この手の話を耳にして「やれやれ」と肩をすくめてみせたのはミヨちゃん。
自分のいる小学校では、今のところ、この手の問題は個人の自由とされている。
国旗は掲げるし、国歌も詠う。でも参加は任意。イヤなら口をつぐんでいればいいし、起立しなくてもいい、静かになら中座することも許されている。
これは教師たちだけでなく、保護者らも交えての会合にて決まったこと。
日頃は、出来るオールドミスな教頭の陰にかくれて存在感のない校長が、珍しく主導したというが、その心は玉虫色の決着だったらしい。
とはいえ、忘れた頃に再燃するのが、この問題のいやらしいところ。
どこかのだれかが、またぞろ、ひょっこり持ち出した。
おかげで対応に追われて、学内はちょっとピリピリした雰囲気。
なんともいえないギスギスを、敏感に肌で感じ取って密かに心を痛めているのは、キャラメル色のくせっ毛のはしがピコンとはねているミヨちゃん。
そんな彼女の隣で、ひたすら黙って、ことの次第を静観していたのは、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに注目されているヒニクちゃん。
昼休みの教室。
子どもたちの間では、事態がどのように落ち着くかの話題で持ちきり。そこかしこで勝手な憶測と予想が飛び交う。
親の思想信条、その動向が地味に自分たちの交友関係にも影響を及ぼすので、幼いなりにみんな心配なのだ。こんなことで大切なお友達を失いたくない。
そんな喧騒の中で、今回の事態を憂いたミヨちゃんが思わずタメ息まじりに嘆く。
「せっかくの卒業式なのに、どうして……」
友の嘆きを受けて、おもむろにヒニクちゃんが閉じていたその口を開く。
「誰もが納得する答えなんて、ない」
卒業式は誰のためのモノ? 子どもたちのためのモノでしょ。
大人たちのオモチャなんかじゃない。議論はネットの掲示板でご自由に。
知識は人の役に立つけれども、足かせにもなると思うの。
……なんぞとコヒニクミコは考えている。
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