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118 ピンチ
しおりを挟む街道沿いにて栄えていた町。
しかし鉄道の開通により、人の流れがかわり、あっという間に寂れてしまった。
そんな町で唯一の保安官である男。産まれも育ちもここ。外で一旗あげる気概も才覚もない。町と運命をともにするかのように、人生を燻らせて生きていく。
ここで起こる犯罪なんて、ちょっとした窃盗とか、酔っ払って暴れたとか、その程度。
かわり映えのしない毎日、漂う倦怠感と閉塞感。楽しみといえば、仕事終わりに一杯ひっかけていくことぐらい。それとても家にいる妻にチクチクと嫌味を云われる始末。
冷めきった夫婦生活。人も、町も、心も、なにもかもが乾いていく……。
そんな場所に、突如として怪異が襲う。
庭先で吠えていた飼い犬が消えた。放牧していた牛が消えた。ついには町民の中にも姿を消す者が現れ、保安官は捜査に乗り出す。
そして彼は、見たこともない巨大なミミズのモンスターと対決することになる。
……といった内容のパニック映画を、家のリビングで見ていたのは、二人の女の子と一人の大学生。
ヤマダ家の長男にして大学生のヒロ兄が、友人から借りてきたという作品。暇だったので、幼女たちもつき合うことにしたのだが。
ストーリーは先のごとく。役者はわりと苦み走った味のある配役ぞろい。しかし低予算のB級作品の悲しさか、モンスターの特撮が驚くほどにチープ。造詣がひどすぎて、うごめく焼チクワにしか見えない。
これには兄の膝の上にちょこんと座っていたミヨちゃん、堪えきれずに吹き出す。兄妹そろって、ケタケタと笑っている。
大爆笑のすぐ横で、画面を見ていたのはヒニクちゃん。お茶請けに出された大きなエビせんべえを、バリボリと丸かじり。
そんな三人をよそに、ストーリーは進んでいく。
詳細は語るに値しないので割愛、クライマックスにて、モンスターがガソリンの入ったドラム缶を呑み込んたところを、ズドンとライフルで一発。ドカンと爆ぜた。しかし何故か、その拍子に周囲が大爆発。保安官の男もコレに巻き込まれてしまう。
で、気がついたら病院のベッドの上。
目を覚ました男が、開口一番「ここは天国か?」
「違うわよ。私がいるじゃない」と答えたのはベッド脇にて、ずっと看病していた奥さん。初出のときには、ガミガミとうるさいだけの印象だったのに、ちょっと小奇麗にしたら見違えていた。まさかの遅れてきたヒロインの登場。
そしてラストは、お約束のキスシーンにて幕を閉じる。スタッフロールでのNG映像集は、見なかった。
「学祭なら許せるレベルだな。それにしても特撮が酷い」とは、ヒロ兄の感想。
「役者とカメラアングルはよかった。ホームビデオみたいだけど、かえってフンイキが出てたと思う。でもチクワはダメだよ。さすがにアレは、ない」意外としっかりした考えを述べるミヨちゃん。
どんな駄作からでも、何がしかのいい点を見つけようとする、その姿勢には好感を覚える。世の中の評論家が、みんな彼女のように広い心の持ち主ならば、きっと創作の翼は、もっと雄々しく羽ばたいていることであろう。
などと思いつつも、口をつぐんでいるのはヒニクちゃん。
そんな彼女に「どうだった?」とミヨちゃんが感想を求める。
友達に求められてはしようがあるまいと、重い口を開くヒニクちゃん。
「ラストがシュール」
妻がいるから天国じゃないという、夫とのやり取り。
考えようでは、妻がいるから地獄って意味にもとれる。
海外の冗談って、結婚生活や奥さんをこき下ろすモノが多いから、判断に困るの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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