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116 三つ子

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「白線からはみ出たら死ぬ」とか言いながら、男の子たちが騒いでいる。
 アスファルトに引かれた線の上を、器用に進んでいく小さな探検隊。横断歩道や途切れている箇所を、知恵と勇気で乗り越えて、ずんずんと。
 それを尻目に、道路の隅っこを行儀よく、スタスタ歩いていたのは二人の女の子。

「男の子ってさ、たまにワケのわからないことするよね」

 つぶやいたのはミヨちゃん。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている小学二年生。手近なモノを、なんでも遊びに結びつける男子たちの発想力には、一目置いているものの、さすがに真似したいとは思っていない女の子。
 隣にて、じーっとコレを見ていたのはヒニクちゃん。視線の先にて、ちょいちょい線からはみ出ているのを目撃しているが、当人が「セーフ」と言い張っている以上、野暮は言わない。なにせ無口な性質にて、一日平均百文字前後で過ごすゆえに、しょうもないことでは言葉を浪費しない。

 二人が見ていると、男の子たちの前方から乳母車を押すお母さんの姿が。座席が二つ並んだタイプにて、中にはピンクとブルーの産着を着た赤ちゃんが収まっている。
 双方の進路が若干被っている。車輪の一つが白線を踏んでいたのだ。
 どうするのかと様子をうかがっていると、実にアッサリと脇にどいて、道を譲った男の子たち。どうやら優先順位をちゃんと理解している模様。
 これには、ミヨちゃんたちも、ちょっと感心。

 男の子たちは、何ごともなかったかのように、白線遊びに戻る。
 乳母車は幼女たちともすれ違う。チラリとのぞくと、双子はスヤスヤとやすらかな寝息を立てていた。

「やっぱり、青が男の子で、ピンクが女の子かな」

 可愛いとハシャギつつ、そんなことを口にするミヨちゃん。ヒニクちゃんもコクンとうなづく。
 しばらくは、その話題で盛りあがる二人。もっとも、おしゃべりするのはミヨちゃんばかり。ヒニクちゃんは、せいぜい相づちを打ったりするぐらいなのだが、これが二人の日常。

 ふと、ミヨちゃんの足が止まる。
 そこは地元でも古株の産婦人科医院の前だった。

「わたしもココで生まれたんだって」

 ヤマダ家の二男一女は全員が、ここの女医さんにお世話になったとミヨちゃん。
 そのついでに話題にのぼったのは、親戚のお姉さんのこと。
 なんでも今度、三つ子の出産を控えているんだとか。調べたら性別とか数がわかるので、事前に準備できるから助かっているとか、なんでも三人分用意しなければいけないので、周囲が大わらわだとか、うれしそうに話す。
 すると長らく閉じていたヒニクちゃんの口が、おもむろに開いた。

「三つ子の確率。二万五千分の一、らしい」

 運命の人に出会えるかもしれない確率、二十八万五千分の一。
 親友と出会えるかもしれない確率、二十四憶分の一。
 いま以上の奇跡を願うのは、いくらなんでも欲張りだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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