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114 嫁姑
しおりを挟むカランと鳴ったのは空き缶の音。
ミヨちゃんが公園に落ちていたモノを、近くのゴミ箱に、えいっと投げたのだが、惜しくも縁に当たってはじかれた。
距離は五メートルほどなのだが、これが案外、難しい。
ムキになった幼女は、わざわざ空き缶を拾い直すと、また元の位置へ。どうやら彼女の中の何かに火がついてしまったらしい。
二度目の投球は、ゴミ箱の頭上を越えて、向こう側へ。再び拾いに行くミヨちゃん。
そんな行動を、そばで見守っていたのはヒニクちゃん。気持ちはわかるとで言いたげにて、やたらと生暖かい視線を親友に送っている。
三度目はゴミ箱の表面に直撃。ちょっとチカラが入り過ぎたのか、ガン! と強めの音がした。四度目は、縁から縁へとカンカン跳ねた後に、ポロリと外へ。
と、ちょうどそこへ通りかかったのは、ジャージ姿のクラスメイトのリョウコちゃん。サッカー少女の彼女は自主練にて、ランニングの途中であった。
ミヨちゃんが空き缶相手に苦戦している話をすると、リョウコちゃん「ちょっとかして」
地面に置いた空き缶を、軽く右足にてコツンと蹴り上げた。
クルクル回りながら、緩やかな放物線を描き飛んでく缶。ストンとゴミ箱にゴール。
シュートを決めたリョウコちゃんが、ブイサインにてニシシと笑う。
これにはミヨちゃんとヒニクちゃんも拍手。
「へんにリキむからダメなんだよ。いっぺん深呼吸してから、やってみるといいよ」
そんな助言を残し、再びランニングへと戻るリョウコちゃん。
遠ざかるポニーテールを見送った後、アドバイスに従って再チャレンジするミヨちゃん。しかし五度目も失敗。一度は入ったというのに、内側の壁にあたって吐き出されるという屈辱を味わう。これには幼女もガックシうなだれて、キャラメル色のくせっ毛をだらり。
すると、ここでヒニクちゃんが動いた。
空き缶を拾い戻ってくると、ピシッと投げる構えをとる。ただし通常の投球フォームではない。缶を手にした肘を対象へと向けて、天に向かい直角に腕を曲げた格好。
それは、ダーツを投げる際のフォームであった。
肘の関節と手首の動きのみにて放たれた空き缶は、一発でゴミ箱にスコンと吸い込まれる。
これにはミヨちゃんも「マジか!」とビックリ。
コツはこれだと言わんばかりに、無言で手首を動かして見せるヒニクちゃん。
結局、ミヨちゃんが見事にゴールを決めたのは、十八投目のことだった。
無駄に疲れた幼女たちは、しばしベンチにて休憩。
「シュートといえば……、ヨメとシュウトって、なんでケンカするのかな?」
ダジャレからはじまる、まさかのミヨちゃんの無茶ぶり。
何らかの拍子に、幼女の中に累積されたもろもろが、カチリとハマることから起こる、この現象。点と点が線で結ばれる。
一見すると脈絡がないようにみえて、そこには意識下の思考的働きがあることを知るヒニクちゃんは、しばし考え込んでから、おもむろに口を開いた。
「名馬も老いればロバに負けるらしい、けど」
女が家について、嫁になる。
女が古くなって、姑になる。
きっと女には、避けられない戦いがあると思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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