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112 クッキー

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 学校帰りに、ちょっと公園に寄り道していたのは、二人の女の子。
 ベンチに腰かけて、仲良くクッキーをポリポリ。
 二人が食べていたのは、六年生のお姉さんが家庭科の調理実習で焼いたもの。
 目鼻立ちのスッキリした先輩にて、性格もよく、同学年の男子からの人気も高い。そんな彼女が焼いたクッキー。狙っていた野郎どもも多かったのだが、それらを差し置いてコレを手に入れたのは、なんとヒニクちゃん。
 極端に無口な性質につき、一日平均百文字前後で過ごす小学二年生。やたらとモフモフに好かれるせいか、少し前から「獣の女王」との異名がつけられたことを当人は知らない。

 さて、そんな二年生が、モテモテな六年生と縁つづきになったのは、帝王パッソが原因である。
 パッソとは学校の飼育小屋で飼われている牡のヤギ。人の選り好みが激しく、気性もわりと荒め。気に入らない相手には、頭突きをかます悪癖を持つ。
 これがうっかり飼育小屋から脱走。誰かが扉の鍵をかけ忘れたのだ。それに運悪く校舎裏で遭遇してしまったお姉さん。まさかの告白現場にヤギ乱入。あろうことか呼び出した男子は彼女を置いて、一目散に逃げだしてしまった。
 残された乙女、大ピンチ!
 そこに颯爽と現れたのがヒニクちゃん。
 たまたま一階の廊下を歩いていたところ、この光景を目撃。
 窓をガラリと開けて、そこからひょいと軽やかに飛び出す。指を口に当てて、「ピュー」と鳴らした。
 とたんにコレに応じるパッソ。まるで絶対女王に仕える騎士のごとく、ヒニクちゃんのところに馳せ参じると、前足を折り曲げ、恭しく頭を垂れた。
 呆気にとられるお姉さんを放置して、ヤギの背にまたがり、カッポカッポと遠ざかっていくヒニクちゃん。

 そんなことがあった二日後。すなわち今日なのだが、昼休みに教室を訪れた上級生のお姉さん。クッキーの包みを持って、わざわざお礼にやってきた。

「ありがとう、助けてくれて。すっごくカッコよかった」

 抱きついて感謝を述べるお姉さん。なかなかの発育のよさにて、胸にギュムッと埋もれるヒニクちゃん。ちょっと苦しそう。これには周囲の男子が騒然。
 しかしそんな中で、ムスっとしているのはミヨちゃん。
 自分の親友が褒められるのはうれしい。けれども過剰なスキンシップは、なんとなく面白くない。
 だから引きはがしに入ったら、逆にミヨちゃんも抱きつかれてモガモガ。

「きゃあー! 可愛すぎる。この子も欲しいー」

 すっかり浮かれたお姉さんに、もみくちゃにされた幼女二人。
 結局、昼休みの終了を告げるチャイムがなるまで、ずっと解放してもらえなかった。

 その時のことを思い出しつつ、もらったクッキーをボリボリかじる二人。形は不揃いながらも味はいい。
 ふと、ミヨちゃんがこんなことを言った。

「どうして子どもの数がふえないのかなぁ」

 そばに落ちてた古新聞の見出し。出生率がどうの、高齢化が深刻だの、国の政策がどうのとか書かれてあるのが、たまたま目に入っただけのこと。
 すると口の中にあったモノをごっくんしてから、ヒニクちゃんが答えた。

「このクッキーと同じ。手作りはたいへん」

 手作りだからムラがでる。
 頑張れば頑張るほどにムラはなくなるけど。
 かといって同じ味や形ばかりだと、飽きちゃうと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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