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107 使命
しおりを挟むおばあちゃんに連れられて、秘仏の御開帳を拝んだ後は、みんなで屋台の味を堪能。ソースと小麦粉で腹を満たしたミヨちゃんは、大きなリンゴ飴を片手にごきげん。
綿アメとどちらにするのかで悩んだのだが、友人からこっそりと告げられたザラメの真実を知って、こちらに決めた。いくらなんでも、アレはぼったくりが過ぎる。
ヒニクちゃんは、色とりどりのドングリ飴が入った袋を手に、ホクホク。
「それにしても……、屋台の買い物ひとつで、こうも性格の差がでるとはねぇ」
自分の孫とその友人を見比べて、祖母は思わずそう口にする。そして自分の若い頃を思い出し、やっぱり自分の孫だなとミヨちゃんの頭を優しく撫でた。
縁日を堪能した一行は、境内にある講堂へと向かう。二十畳ほどの小さな建物にて、住職の説法があるというので、足を運んだのだ。
説法といっても、堅苦しいものではなくて、紙芝居みたいな形式にて、子どもからお年寄りまで楽しめるようになっている。
話の内容は、愛執にとち狂った女が、相手の男を追いかけ回して、ついには蛇身となって、最後にはとり殺してしまうというもの。
きっぱりと断らずに、思わせぶりなウソで騙した男も男だが、それを真に受けてどこまでも追いすがる女も女。
現代で云うところの結婚詐欺とストーカー殺人事件。
日本画独特のタッチで描かれた迫力のある絵。どこまでもヒタヒタと追ってくるという、わりと怖い展開の連続。
これにはミヨちゃん、かなりドキドキ。話を聞き終えたとき、よほど緊張していたのか、「ふぅ」と安堵の吐息をこぼす。
「こわかったねえ。でも、おもしろかったー」
お寺からの帰り道、そんな感想を述べたミヨちゃん。
「そうかい。じゃあ、今夜は一人でも大丈夫だね」
おばあちゃんが言うと、すかさず「それはムリ」「お母さんかおばあちゃんのところで、いっしょにねるもん」
へんに見栄をはったり、強がったりしない。ミヨちゃんは自分にとっても素直な子。
これには祖母もくつくつ笑うしかない。
そんな二人のやりとりを見つめるヒニクちゃんの目は、とても優しかった。
「お坊さんって、毎日、ナムナムお経をとなえているんだよね。神父さんとかもそうだけど。もしかして天国行き、けってい?」
今日のことを色々と話しながら歩いていると、ふと、ミヨちゃんがこんなことを口にした。
善人は天国へ。悪人は地獄へ。説法の中でも触れられていたこと。
すると、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「たぶん仕事熱心な人ほど、地獄行き」
だって坊主や神父を、本当に必要としているのって、
天国にいる人たちじゃなくって、地獄にいる人たちだから。
まともな聖職者ほど、使命感に駆られて、危険地帯に行っちゃうと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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