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101 やり手
しおりを挟むくり抜かれたような山間部にある集落。そこをぐるりと囲むかのように、幾層にも連なるのは棚田。緑のあぜ道が境界となって、いくつもの水田が隣り合う。「ピーヒョロロロ」とトビが鳴く。
よく晴れた日、青空を流れる雲を、鏡面のように鮮やかに映した田園風景。
これを前にして、思わず子どもたちも言葉を失った。
やんちゃな子らをも黙らせたのは、全国の名景百選にも選ばれたことのある場所。
本日は学校の行事にて、朝からこちらにお邪魔して、米作りの体験学習。
素足にて泥にまみれつつ、実際に田植えを手伝い、お昼には自慢のお米で握ったおにぎりをいただく。秋には収穫された新米が届くという、嬉しいオマケつき。
農家のおじさんおばさんらに、みんなで元気よく挨拶をしてから、さっそく水田へ。
はじめはヌルっとした泥の感触に戸惑っていた子らも、じきに慣れてはしゃぐ。
顔に泥をつけながら、指導に従って、稲を一本一本、手で植えていく。
うーん、と唸って腰を伸ばしたのはミヨちゃん。
中途半端な前かがみの姿勢が、腰にくるのに老いも若いも関係ない。ゴキリとくるときには、くる。だから定期的にそうするようにと、事前に注意を受けていたのである。
ギックリ腰の恐怖については、知り合いの年寄り連中から、散々に聞かされているので、ミヨちゃんの用心は人一倍であった。
隣にて同じように胸を反り、背筋をのばしていたのはヒニクちゃん。家でもペットのゾウガメのために、葉物野菜などを育てているせいか、わりとこの手の作業が好きな彼女。キビキビとした動きにて、黙々と田植えに取り組む小さな背中。
これに舌を巻いた指導員の老人が、密かに「手植えの小鬼」なんぞと命名していたとは露知らず。
「あれ?」ミヨちゃんが顔を向けた先には、大きな観光バスが鈴なり。ぞろぞろと降りてくるのは外国の人たち。景色に感動したのか、喜色の表情にて、異国の言葉が飛び交い、静かな里山に、カメラのシャッター音がパシャパシャ響く。まぶしいフラッシュの花が咲き乱れ、賑やかさを増す。
「ああ、アレは観光客さ。昔は人なんて寄りつかなかったのに、国の名景百選に選ばれたとたん、映像が勝手にインターネットで拡散して、今ではこの通りさ」と指導員のおじさん。
「おうおう、おかげで、カラスやサルもこんで助かっとるわい」とは長老格の言葉。
「じゃあ、もう、さみしくないねえ」
ニパッと笑って、ちらりと白い八重歯がお目見え。これまで数多のお年寄り連中のハートを撃ち抜いてきたミヨちゃんスマイルが炸裂して、長老轟沈。「うちの孫の嫁にこんかのぉ」と言い出したところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「地域活性。一石三鳥」
景色にて、ちょっとした観光地化でウハウハ。
人が来るのでカラスやサル、イノシシが近寄らなくて、案山子や電気柵いらず。
ちびっ子らの体験学習にて、労働力不足も解消。おかげで溜まる一方だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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