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97 石ころ

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「思ったよりかるいんだねえ」

 手にした黒い塊を、しげしげと眺めていたのはミヨちゃん。
 ヨーコ先生が用意した豆炭の見本を、みんなで回し見していたときのこと。
 授業中に、なにかの拍子に火鉢や七輪の話がでたのだが、その燃料について、今どきの子どもたちの大半がピンとこなかった。これを受けて、先生がわざわざホームセンターにて購入してきた品を、見せてくれたというわけ。
 キャンプに行ったことのある子や、家でバーベキューをする子は、「知ってる」とちょっと得意気。
 ガヤガヤと賑わう教室。
 そんな中で、クラスのオシャレ番長アイちゃんの発したひと言が、波紋をもたらす。

「そういえば……、石炭でダイヤが作れるって、聞いたような」

 ダイヤモンド、それは永遠の輝き。
 キラキラ、ピカピカ、そしてとってもお高い、宝石の王さま。
 とたんに女の子たちの目の色が変わった。
 手が汚れるのもおかまいなしに、豆炭を奪いあいそうな勢いに。
 迫力に気おされて男子らが怯えて、「ひぃ」と小さな悲鳴をあげる。
 これにはヨーコ先生もちょっと苦笑い。

「はいはい。みなさんの気持ちはわかりますが、とりあえず落ち着きましょうね」

 ヨーコ先生が話し始めたのは、アイちゃんの発言の詳細について。
 ぶっちゃけ石炭などの元である、炭素物質を高温超高圧にて圧縮すれば、ダイヤモンドを造り出すことが可能ということを、簡潔に説明する。
 砂糖からでも造れると聞いて、女性陣から歓声があがるも、すぐにしぼんだ。
 なにせ、それには、モノすごく手間と技術がかるから。てっきりお手軽にダイヤが手に入るものと喜んでいた女の子たちは、ガッカリ。

「髪の毛や遺骨なんかからも造られたって話よ。海外にはそんなサービスもあるとか」

 ペットや故人の体をダイヤに変えて、ネックレスなんかにして持ち歩いていると先生より聞いて、多くの子らが「げぇ」と顔をしかめる。
 失われた大切な存在を偲ぶ方法や考え方は、国や地域、信仰などでさまざま。自分と違うからといって、それだけで否定するのはダメだと、やんわり諭すヨーコ先生。
 そんな話をよそに、手の平にてクルクルと豆炭をまわしては、その姿を無言で見つめているヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。

「石炭とダイヤ。違いは値段だけ」

 よく燃える石と、そうでもない石。
 わたしたちの生活を支える石と、キレイだけど、しばしば争いの種になる石。
 はたして本当に価値がある石ころは、どちらなのかしら。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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