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95 モンスター
しおりを挟むつつがなく一日が終わり、みんながワイワイと下校していく。
それを尻目に飼育小屋へと向かう、ミヨちゃんとヒニクちゃんたち。
飼育係のチエミちゃんから、助っ人を頼まれたのだ。
今日は月に一度の大掃除の日。
動物たちを全部、外へ出して小屋の中をきれいにする。なのに今回は頼りになる上級生たちが、学校行事にて不在。四年生以下だけで行わなければならない。
だがあそこにいる動物たちは、牡ヤギのパッソをはじめ、曲者ぞろい。ガキんちょどもの言うことを素直に聞いてくれそうなのは、ウサギぐらい。
だからパッソが頭を垂れるヨーコ先生に付き添いをお願いしたのだが、あいにくと用事があって断られてしまう。そこで白羽の矢が立ったのがヒニクちゃん。
なにせ彼女は、あの帝王パッソがその背を許した唯一の存在。モフモフに愛されるために産まれてきたかのように、無条件に懐かれる。惜しむらくは彼女の興味の大部分が、自宅で飼っている、ゾウガメのポン太に注がれていることか。
給食の時間に、チエミちゃんがずっとずっと楽しみにしていた、給食のプリンを半べそにて差し出し、平身低頭にてお願いしたところ、これをそっと押し返すヒニクちゃん。
黙ってうなずく、その男前な態度に、クラス中がどよめいた。
ミヨちゃんも事前に助っ人を頼まれたのだが、こちらはふつうにお願いされた。
性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている彼女。困っている友人を見捨てるなんて、はなから考えられていなかったのである。もちろん二つ返事で快諾。
ちなみに彼女の役割は、池の掃除の手伝い。
ミヨちゃんはおとなしいはずのウサギにすら、全力で逃げられるくらいに、モフモフに心底嫌われる星の下に産まれた女。そのかわりに、魚類やら昆虫類には心底好かれるという性質を持つ。ゆえにその特性を活かして、係のみんなが底をさらっている間、魚どもを一か所に集めておく任務を課されている。
ミヨちゃんとヒニクちゃんの活躍もあり、飼育係の大仕事は、つつがなく終了。
飼育係の子らの万歳三唱にて送り出された二人。
お役御免となったので、帰ろうと昇降口に向かっていたら、放課後の廊下に女の人の怒声が響き渡る。
何事かと思えば、教頭先生が保護者らしき女性と対峙していた。
ギャアギャアと喚く保護者の女性。話している内容から、どうやら我が子がこっぴどく先生に叱られて、泣いて帰ってきたらしい。
その抗議へと学校に押しかけたようだ。
「わたし、知ってる。あれって『モンスターペアレント』って言うんだよね」
おばあちゃんと一緒にテレビを見る機会が多いせいか、意外にニュースも見ているミヨちゃんが知識を披露する。なおモンスターペアレントとは、悪質なクレーマーの保護者版のこと。
一方的にがなり立てるオバさんの騒音に、顔をしかめるヒニクちゃん。
しかしさすがは我らが教頭先生。相手の身勝手な言い分の間隙に、バッサリと斬り込む。
「ちょうどよかったです。こちらから連絡しようと思っていたので。叱られた? 当たり前です。宿題はしてこない。提出物は期日通りに持ってこない。忘れ物をしない日のほうが少ない。授業中に騒ぐ。その他にも目に余る問題行動が多数。それらの件について、お親御さんのご意見をお伺いしたいと思っていたところです」
積み上げてきたモノの重み、教育に対する覚悟、人間どころか生物としての圧倒的格の違いにて、相手を圧倒。
正論にて、真っ向から叩き伏せられたモンスター。弱者に強く強者に弱いのが、この手の人物のお約束。とたんに威勢が尻すぼみ。そこを教頭先生に来客用の部屋へと引っ立てられていった。
きっと、これから相談というていの、長い長いお説教タイムが始まるのだろう。
遠ざかっていく二人の背中を見送りつつ、ミヨちゃんがポツリ。
「怒ったカオがおっかないから、モンスターなのかな?」
先ほどのオバさんの形相を思い出しての、この台詞。
それを受けて、しばし考え込んでいたヒニクちゃんの口が、おもむろに開く。
「それもあるけど、たぶん言葉が通じないから」
他の人の話に耳を傾けられなくなると、人はモンスターになる。
我が子の話すら、ちゃんと聞けないからモンスターペアレント。
でも言葉が通じないのは獣も一緒。だからビシバシ、しつけは可能だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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