88 / 1,003
88 豊かさ
しおりを挟むおしゃべりをしながら下校している二人の女の子。
足のつま先にて小石をこつんと転がし合いながら、彼女たちが話題にしているのは、今日の授業で習ったこと。
近代になり、衣食住が充実。おかげで私たちの暮らしが豊かになった。
ヨーコ先生にそう教えてもらったのだけど、それで宿題として「自分たちの身の回りの豊かさを探してみよう」という課題を出される。
そこで二人は考えた。
衣は、ファストファッションのおかげで、そこそこオシャレな服を安価で手に入れられて、気軽に流行を楽しめるようになった。
食は、ファーストフードのおかげで、手早く気軽に美味しいモノが安価で食べられるようになった。ポテトうまー! シェイク最強!
だけど住は、じゅうは……。
「安い家だから、ボロアパート! ……は、なんだかちがうよね」
少し前に通学路にて解体された、築うん十年のアパートの姿を想像したのはミヨちゃん。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているけれども、密かに男子の人気ランキングにて、グングン順位を上げている小学二年生。
一緒になって小首をかしげているのはヒニクちゃん。これはあだ名、本名をコヒニクミコというが、いろいろあってこんな愛称がすっかり定着している。
残念ながら彼女はランキング外。いかにお人形さんのような容姿であろうとも、それだけで選ばれるほど安易ではない。男子も見るべきところは見て、押さえるべきところはしっかり押さえている。「かわいいけど、何を考えているのかわからない」「どう接したらいいのかナゾ」といった点が、マイナス要因となってのこの結果。ただし根強い固定ファンはいるらしい。
「家って、すっごく、すっごく、高いよね」
不動産屋の軒先にて、足を止めたランキング常連幼女。見上げた先には賃貸マンションやらアパートだけでなく、駅前にて建設中のタワーマンションや売り家の情報なんかも張り出されていた。
LDKとか建ぺい率とか、小難しい文字の羅列は無視して、横の数字にだけ目を通すミヨちゃん。あまりの金額に思わず「ふぅ」とタメ息をこぼす。
ヒニクちゃんはゼロの数をかぞえて、目をむく。大人ですらもが尻込みする金額。幼女にとっては、未知の領域どころの話ではない。さしものモノには動じないことに定評のある彼女でも、ちょっと指さきが震えちゃう。
「ヨーコ先生はあんな風に言ってたけど、家だけはちがうっぽい。もしかして、私たちのところってば、ぜんぜん、ゆたかじゃないのかな」
一見すると衣食住が満たされて、豊かに思えた身の回りが、実は違うのかもと思って、少し不安な表情を浮かべるミヨちゃん。
友達の憂いをおびた横顔に、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「一人でダメなら、二人でシェアすればいい」
不動産価格は景気に左右されやすい。不景気になれば安くなるけれど、
給料もさっぱりだから、やっぱり手が出ない。
衣食住は暮らしのバロメーター。でも豊かさって、それだけじゃないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる