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しおりを挟むまるで時代劇に登場する武家屋敷のような門構えを抜けると、手入れが行き届いた庭園がお目見え。玉砂利の道を進むと、大きな日本家屋が姿を現す。
十畳ほどもある表玄関。上がりかまちから奥へと続く長い廊下には、落ち着いた色味の赤い絨毯が敷かれてある。
前を静々と歩く喪服姿の老婆。おっかなびっくりで後からついてゆく二人の女の子。
キャラメル色のくせっ毛のはしがピコンとはねたミヨちゃんと、極端に無口な性質のヒニクちゃん。
ミヨちゃんのおばあちゃんに連れられて、こんな立派な場所へとやってきた理由は、お葬式の後のおもてなしを受けるため。いわゆる精進落としというもの。
この度、二人も面識のある、この屋敷の主人が亡くなった。
故人は資産家ながらも気さくな人柄にて、交友関係も広く、地元の集まりにもよく顔を出していた。自分が家族の縁に恵まれなかったせいか、子ども好きな一面もあり、老人会で知り合ってからは、ミヨちゃんたちも何かと可愛がってもらっていた。
学校のプールがすっぽり収まりそうな奥の大広間。
すでに多くの弔問客らがつめかけている。
きちんとした席順じゃなくて、おのおのが適当に車座をつくり、寿司をつまみながら一献、といった形式。
なので配られた折り詰めとジュースを手に、適当なところに腰を下ろす幼女たち。おばあちゃんは知り合いに挨拶してくると、席を立つ。
「ゴハンがちょっとスッパイけど、おいしいね」
モグモグ頬を動かしながらのミヨちゃんの言葉に、コクンとうなづくヒニクちゃん。
いくぶん酸味のキツイお寿司。たぶん傷まないようにとの業者の配慮。
二人が食事をしながら大人しくしていると、周囲から聞こえてくるのは故人のよもやま話。「いいひとだった」「やさしいひとだった」という人柄から始まり、胃酸過多にて薬が手放せなかったという持病についてや、仕事の武勇伝に跡目問題、果ては莫大な資産の行方までが語り草。なかにはミヨちゃんのおばあちゃんに惚れていた? みたいな話まで飛び出し、ドキリとする幼女たち。
これらの話を聞くとはなしに聞いていたミヨちゃんが、しみじみ。「こんなに人がいっぱい。あのおじいちゃん、人気者だったんだねぇ」
すると口に含んでいたのり巻きを、ごっくんしたヒニクちゃんが、落ち着いたところで言葉を発した。
「遺産過多につき大人気」
葬儀にての参列者の集まり具合は、故人の人柄や地位に左右される。
葬儀にての親族の集まり具合は、遺産の規模に左右される。
趣味で大量のコレクションとかしてる人は、終活も考えるべきだと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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