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 親戚とか知人に、芸能人とかスポーツ選手とかいたら、ちょっと自慢したくなるもの。
 ご先祖さまにエライ人とかいたら、それを誇りにするのも、まぁ、当然だろう。
 何事にも由来はある。人や家に歴史あり。
 しかしその歴史を巡って、昼休みの教室の一角が白熱している。
 ことの起こりは、午前中にあった国語の授業。
 名字の漢字について、ヨーコ先生が触れたのがきっかけ。

「地名だったり、役職や職業だったり、みんなにはどんな由来があるのかな? 興味があったら調べてみましょう」

 これを受けて、やいのやいのと盛り上がる子どもたち。その中で男の子のひとりが、自分の先祖について口にする。
 なんでも維新の志士だったとかいう話。
 これに異様に喰いついたのは、ミヨちゃん。
 祖母と同居している影響にて、幼少期より時代劇を見て過ごしてきた彼女。歳のわりには歴史に詳しい。世間で大人気の魔法少女のステッキの玩具よりも、兄が修学旅行のお土産に買ってきた十手や木刀を喜ぶような女の子。だからキャラメル色のくせっ毛を揺らして「すごい、すごい」と大はしゃぎ。
 これに男の子も満更ではない様子にて、へへんと得意気。
 なにせミヨちゃんは、性格が素直にて、笑うと八重歯がチラ見するかわいい子。そんな子に褒められたら、男心がうずうずしちゃう。
 すると、これに妙な対抗心を燃やす別の男子が現れて、「そんなのたいしたことないぜ。オレんちなんてなぁ」と言い出したから、さぁ、たいへん。
 ご先祖やら知人らの自慢合戦が勃発する。

 ムダに張り合う男どもを、遠目に眺めていた女の子たちの一団。

「ミヨちゃんってば、とんだ小悪魔なんだから」クラスのオシャレ番長のアイちゃんがニヤリと笑みを浮かべると、これにリョウコちゃんがうなずく。「男ってバカだな」
 チエミちゃんは、「あれが、あれが天然のチカラか」と慄いている。
 ヒニクちゃんは無言で見守っている。

「気持ちはわかるけど、アレって、ちょっとむなしくない?」
「うーん、でも知り合いにアイドルとかいたら、私もじまんしちゃうかも」

 いくら先祖や知り合いが凄くても、しょせんは他人事。それを声高に叫ぶことに対して、ドライなアイちゃんが、暗に「情けない」と男どもをバッサリ切り捨てる。
 でもチエミちゃんは、ちょっぴり理解を示す。リョウコちゃんはどうでもいいといった表情。
 すると長らく閉じていたヒニクちゃんの口が、おもむろに開かれた。

「自慢話はコンプレックスの裏返し」

 ことあるごとに血筋や先祖を自慢する子孫。
 はたしてご先祖さまは、そんな子孫を自慢するのかしら?
 さすが、と云われるぐらいでなければ、意味がないと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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