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71 リゾート

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 下校途中にて、商店街にある旅行代理店の前で立ち止まったのは、二人の女の子。
 近頃、テレビのコマーシャルでよく見かける、リゾートホテルのポスターを眺めていたのは、キャラメル色のくせっ毛の先っぽが、くるんとはねているミヨちゃん。来月発売される少女コミックの新刊三冊のうち、どれを買うべきかを密かに悩んでいる小学二年生。
 豪華客船にて、世界遺産を巡る旅のパンフレットを手にとっていたのはヒニクちゃん。庭で育てている葉物野菜を、そろそろ収穫しようかと考えている小学二年生。ちなみにそれはポン太のエサ用である。なおポン太とは、コヒニ家で飼われているペットのゾウガメ。

 さて、一見するとステキなリゾートに憧れている幼女に見える、この二人。
 だが、少なくともミヨちゃんは違う。ご近所のお年寄りたちをメロメロにする、愛くるし笑顔はなく、かわりに眉間にしわを寄せてのしかめっ面。
 彼女は生まれながらに業を背負っている。
 モフモフに愛されないかわりに、それ以外にはわりと好かれるという業を。
 犬や猫には触れることもかなわないのに、魚とかには熱烈歓迎を受ける。そしてそれは虫類にも影響を及ぼす。
 カブトムシやクワガタを採るのに、網も蜜も籠もいらない。ミヨちゃん一人あればいい。というぐらいに好かれる。彼女が山の中でぼんやりと立っているだけで、向こうから勝手に飛んでくる。

 かつてキャンプに行ったときのこと。
 気がついたら背中にビッシリなんてこともあり、幼女はピーピー泣いて、すっかり虫嫌いになった。
 そんなミヨちゃんにとって、都会の喧騒を離れて、豊な自然に囲まれて、ゆったりのんびりできるとの謳い文句のリゾートホテルなんて、悪魔の城に匹敵する場所。
 プロのパティシィエによる高級デザートバイキングと天秤にかけても、行くのを諦めてしまう、かもしれない。

 それがわかっているからこそ、ヒニクちゃんは豪華客船のパンフレットを見ていた。
 海に行けば魚類が押し寄せる大漁娘のミヨちゃんとて、動く城塞のごとき客船の中に引きこもっていれば、安心して過ごせるだろうと考えたから。
 いつかはミヨちゃんと二人で、旅行とかにも行ってみたいヒニクちゃんなのである。

「海も山もダメ……。わたしにリゾートでバカンスはむりみたい」

 自分は人並みの幸せも掴めないのかと、がっかりミヨちゃん。
 するとおもむろにヒニクちゃんが、口を開いた。

「山でも大丈夫。標高五千を越えたら、減る」

 新しい発見、新しい体験、ドキドキわくわく未知との遭遇。
 旅行は楽しい。でも帰ってくる度にしみじみ感じるのは、
 なんだかんだで、我が家が一番ということだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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