ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

68 アイドル

　
　スピーカーから奇怪なリズムにのって、よくわからない言葉の羅列が流れてくる。
　とあるアイドルグループの曲なのだが、これに耳を傾けている二人の小学生の女の子は、終始無言。
　どうやら感性が、決定的に合わなかったようだ。
　幼女たちは、恐ろしく冷めた目をしている。
　ミヨちゃんの兄の友人からもらったという、ＣＤを聞いてみたのだが、結果は御覧の通り。
　四曲入りのシングルＣＤ。うち半分はカラオケなので実質二曲。ゆえに無言の苦行時間は十分ほどで終了。

「イチオチらしいよ。おうえんするから、何まいも買っては、配るんだって」

　ミヨちゃんが、ステレオのリモコンの再生スイッチを切った。
　ＣＤケースを手に、じーっと睨んでいるのはヒニクちゃん。
　ジャケットの表面では五人組が全員、白と赤の巫女装束に身をつつみ、狐のお面をかぶっている姿があった。グループの基本コンセプトについては、歌詞カードの最後につらつら書かれてあったが、それは割愛する。

「『お布施』がどうとか言ってたけど。だから、おいなりさんなのかなぁ」

　小首をかしげつつも、ステレオ本体より取り出したＣＤを、ケースにしまうミヨちゃん。
　ヒニクちゃんは「わからない」の意を込めて、首を横にふる。
　幼女らにしても、保存用と観賞用という概念はなんとなく理解できる。それだけ好きだということだから。でもそれをダンボール一杯も買って配るという心理が、よくわからない。

「あと、このカラオケってやつ、いるのかな？」

　ぼそりとミヨちゃんがこぼす。
　だいたいのシングルＣＤに付いている、カラオケ曲。
　彼女はこれで実際に歌っている人を、ほとんど見たことがない。自分が知っているのは、せいぜいカラオケを生きがいにしている、お年寄りぐらい。
　オマケと割り切れば、得なような気もするし、たんなるボリューム増しの底上げと考えると、損をしたような気もする。心中複雑なミヨちゃん。タダでもらった品だとて、そこはそれ、モヤっとしてしまう。
　すると、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「男は目で恋をする、らしい」

　恋をすると男は阿呆になる。でも女はきっと賢くなる。
　だって少女マンガのヒロインのライバルって、みんなスゴイもの。
　物語だとヒロインが勝つけど、現実だったらライバルの圧勝だと思うの。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。