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59 橋の上
しおりを挟む市内を横断するように流れる川。そこそこの川幅と水深。かかっている橋を利用している人は多い。
だというのに、騒ぎにより封鎖されて、みんなが大迷惑。
原因はひとりの若い男。いささか酩酊状態にて、橋の欄干から身をおどらせて飛び降りようとしている。
これを思いとどまらせようと、お巡りさんらが懸命に説得を試みている真っ最中。
そんな場面に行き合ったのは、二人の小学生の女の子。
「コイビトと親友の二人に、うらぎられたんだって。かわいそうに……。ドロドロの昼ドラだよ。そりゃあ、ヤケにもなるよ」
周囲の野次馬から情報を得て、同情したのはミヨちゃん、小学二年生。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているけど、心優しい女の子。
ハラハラしつつ事態を見守っているミヨちゃんの隣にて、黙ったままで、じーっと騒ぎを見つめていたのはヒニクちゃん。もちろんこれはあだ名、本名をコヒニクミコという。いろいろあって、こんな愛称で呼ばれているが、中身は友達想いの子。ただし、筋金入りの無口な性質にて、一日平均百文字程度で過ごしている。
信じていた恋人と、信じていた親友からのダブルパンチを受けて、とり乱している酔っ払い相手に、手をこまねいているお巡りさんたち。
橋の上から川面までは十五メートルほどの高さ。先日の雨の影響で水量は増しており、流れがいつもよりも激しい。うっかり落ちられたら、たいへん。だからどうしても対応が慎重にならざるおえず、まごついていた。
「どうしようか、まわり道、する?」
まだしばらくかかりそうだと判断したミヨちゃん。
しかし迂回するには、下流二キロのところにある橋まで行かねばならない。小学二年生の足には、いささか酷な距離だ。
そこでゴソゴソと手さげかばんから、紙と鉛筆を取り出したヒニクちゃんは、何やら書き書き。
丁寧におりたたんで、橋の封鎖を行っていた警察官に手渡す。
二言三言、短いやりとりをしてから受け取った紙を手に、慌てて現場へと向かう警官。
紙はそこから、数人を経由して、自殺騒ぎを起こしている当人の手へ。
目を通した青年は、「はっ」とした表情の後に、ガクリと項垂れて、自ら欄干から降りてきたところを、無事に確保された。
なお紙には、以下のようなことが書かれてあった。
『そこは下に杭がいっぱい。小さな子どもも見ているから、せめて反対側にして』
旧約聖書で神さまも言ってるわ。男と女の出会う道なんて知らねぇよ! って。
恋愛や失恋や裏切りなんて、何度でも経験できるけど、死は一回きり。
気安く試すには、ちょっともったいないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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