ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

54 お見舞い

　
　本日は市内の病院にきている。
　ミヨちゃんの祖母の友人が、腰を痛めて三日ばかり入院することになったので、そのお見舞いである。
　ミヨちゃんも知っている相手だったので同行することに。そしてついでだとばかりに、ヒニクちゃんもおばあちゃんに連行されてしまった。

　一年ほどまえに建て替えられた病院。明るい院内は自然の光を取り入れるようにとの工夫が随所にされており、患者たちに圧迫感を与えないようにと天井も高め。リゾートホテルのような内装。エントランスには自動で演奏するピアノまで飾ってあり、とってもキレイでおしゃれ。
　病院と聞いて、独特の薬品臭や陰気な雰囲気を妄想していた幼女二人も、これにはビックリ。
　一歩、足を踏み入れたとたんに思わず立ち止まり、高い天井を見上げる。視線の先にはステンドガラスで描かれた、美麗な女神が微笑んでいた。

「ほへー」

　感心のあまり、思わず声をあげたのはミヨちゃん。キャラメル色のくせっ毛の先っぽがピコピコ揺れている。ちょっと興奮しているようだ。
　その隣にて無言で天井を見つめているのはヒニクちゃん。クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、周囲の大人たちからは密かに注視されている小学二年生の女の子。ミヨちゃんの一番の仲良し。

「ほら、いつまでボケっとしてるんだい。そろそろ行くよ」

　おばあちゃんに促されて、テクテクとついて行く二人。
　目指す場所は五階の角の大部屋。



「年甲斐もなくはしゃぐから、こんな目に合うんだよ」
「いやはや、面目ねえ」

　お見舞いの第一声が説教という、ミヨのおばあちゃん。
　ポリポリ頭をかいて反省している老人は、彼女の俳句のサークル仲間。どうして病床のお世話になっているのかというと、夜中に急に思い立って押し入れの片づけを始めてしまったらしい。で、ついつい夢中になっているうち、ゴキリとやってしまったというワケ。
　話を聞きながら「あるある」と頷いているミヨちゃんとヒニクちゃん。二人は頬を膨らませてモキュモキュしている。老人からお菓子を振る舞われたのだ。

　幼女たちのほのぼのとした姿に癒されて、和気あいあい。
　そんな彼らの隣のベッドでは、尊大な患者を見舞う背広姿の男性の姿があった。

「仕事のほうは大丈夫ですから。しっかり養生して下さい」

　グチグチとうるさい病人に、こう言い残して帰って行った見舞客。
　もれ聞えてくる会話の内容からして、どうやら会社の中間管理職を、部下が見舞いにきたよう。
　この様子をじーっと見ていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。

「大丈夫という言葉の意味。解釈の問題」

　貴方がいない方が仕事がはかどる、という意味での大丈夫？
　貴方がいない分をみんなで頑張る、という意味での大丈夫？
　日本語って難しい。じつに悩ましい案件だと思うの。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。