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44 愛犬家
しおりを挟む「はぁ、おまえのところはいいよなぁー」
タメ息をこぼしたのは制服姿の高校生の男子。ミヨちゃんの二番目のタカ兄の友人。
今日は学校帰りに、ヤマダ家へと立ち寄っていた。
友人の彼がボヤいていたのは、自分の母親について。
とにかく愛犬のポメラニアンが第一の人。家のことや、父親、息子を放っておいて、そっちの世話ばかりを熱心に焼いている。
ワンちゃんの食事には気をつかい、手間暇をかけるくせに、自分の昼めしには弁当ひとつ作らずに、五百円玉を渡して、おしまい。万事がそんな調子にて、とにかく兄の友人は不満を募らせていた。それで他人の芝はよく見えるわけで……。
ヤマダ家のお母さんは、子ども三人に夫と義母との同居にて、日々奮闘しているベテラン主婦。家事もそつなくこなしている。ただいまスーパーのタイムセールに突撃中にて、ちょっと留守。
そんな母親が、うらやましいと言う兄の友人。
この話を兄の膝の上で、ちょこんと座って聞いていたのは、ヤマダ家の末妹のミヨちゃん。ちょうど帰宅したところで両者はかち合って、なぜだかこういう流れになってしまった。
妹が可愛くて仕方のない兄たちは、なにかと彼女をかまいたがる。
生来の性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている心優しいミヨちゃんは、「これも家族サービス」と達観している小学二年生。
「たいへんだねぇ」
ミヨちゃんが同情すると、友人、感動。
「いい子だなぁ。オレもこんなかわいい妹が欲しい」
「やらんぞ! あと手を出したら、おまえを、殺す!」
ちょっと褒めただけで、飛び出した殺害予告にビクリとなる兄の友人。頭を撫でようと、のばしかけた手を慌てて引っ込める。
妹バカ全開の兄の態度に、ミヨちゃんも思わず苦笑い。
……なんてことがあったんだよぉ。
と、ミヨちゃんが話して聞かせていたのはヒニクちゃん。自他ともに認める極端に無口な女の子。お人形さんのような見た目に反して、たまに口を開くとわりと辛辣な言葉を吐くので、本名をもじってこう呼ばれるようになって久しい。
そんなヒニクちゃんがのそりと口を開く。
「それはしかたがない」
ワンちゃんは、ちゃんと感謝して尻尾をふる。
ワンちゃんは、吼えるけど愚痴らない。
ワンちゃんは、抱き心地がいい。少なくとも夫と息子よりは。と思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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