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36 写生
しおりを挟む校庭にある花壇の前で、仲良く並んでしゃがみ込んでいる女の子たち。
二人は手元の画用紙に、せっせと絵筆を走らせている。
色とりどりの花を、色彩豊かに描いているのは、性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。少女マンガが好きな彼女は、こっそりお絵かきもしているので、わりと上手。
その隣で淡々と課題と向き合っているのはヒニクちゃん。
早々に仕上げた作品を提出したのだが、先生からすげなく突きかえされたので、ただいま二枚目に着手中。
「うまく描けてるけど、白黒はダメです。手抜きは許しません」とヨーコ先生。
色を沢山使うと、それだけ手間がかかる。あと筆を洗う水の入れ替えが地味に面倒。だからサクっと仕上げたヒニクちゃん。しかし自分の教え子たちの性格を熟知しているヨーコ先生にはお見通し。あっさり却下されてしまった。
お母さんが人形作家をしているわりには、ヒニクちゃんはあまり芸術に熱心ではない。造詣はそれなり、眺めるのも嫌いじゃない、でも自分で創るのはちょっと……、らしい。
「よし! できた!」
ミヨちゃんが絵筆を置く。画用紙には華やかな花壇の様子がイキイキと描かれている。見る者の心をほっこりとさせる作風。彼女の天真爛漫ぶりが如実に現れている絵に、ヨーコ先生も思わず笑みをこぼす。もちろん、文句なしに合格である。
「よく描けてますね」
先生に褒められて、ミヨちゃんがモジモジ照れた。
これを皮切りに、絵を仕上げるクラスの女子らがチラホラと出始める。
それらを尻目に黙々と二枚目の画用紙と格闘中のヒニクちゃん。
と、その一方で男子たちは……。
「ここはオレの場所だ。あっちイケよ」
「おまえこそ向こうへイケ。マネすんな」
「なにおう」
「なんだよ」
ちょいちょいとモメていた。
女の子らは同じ場所でも仲良く描くのに、男の子らは独立独歩の気風が強いのか、わりと嫌がる。とくに「真似」という言葉に過剰に反応しては、しばしば小競り合いに発展する。おかげで先生はてんてこまい。
それを呆れ顔で見ていたミヨちゃん。突然、ポンと手をたたき、「なんだかアレっぽい」とひらめいた。
アレとは何ぞや? との意味を込めてヒニクちゃんが首をかしげる。
「アレだよアレ。おやくそくの『オレの女に手を出すな!』だよ」
いささか少女マンガに毒されているミヨちゃん。現実からピコンと発想を飛ばして、突発的に、この手の発言をする。おそらく一つの場所やモチーフを取り合う男子たちの姿から、そっちへと脳内変換を行ったのであろう。
ミヨちゃんが持ち出したのは、息子の恋人であるヒロインが、あろうことか魅力的な息子の父親にも心を惹かれてしまい、父子の間で揺れ動くドロドロの三角関係を描いた作品。
「オレの女に手を出すな!」と息子が怒れば、父が「おまえだってオレの女をとったじゃないか」と言い返す。作中にこのような場面があるそうな。ちなみに父の言った女とは、亡くなった奥さんのこと。
子どもが生まれて、妻から母となったことで、夫よりも息子に夢中になったことを言っているのだろうが、そんな台詞を臆面もなく吐いてしまう父親に、惹かれるヒロインも大概である。
なんぞと考えつつも、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「血の繋がりは何よりも勝る」
腹を痛めて産んだ我が子。愛し合って一緒になった夫。
苗から育てているのと、咲いていたのを買ってきたの。
愛着なんて、比べるまでもないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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