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34 心のかたち

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 地元の商店街は、ほどほどに賑わっている。
 シャッターが閉じられっぱなしの店舗がないようにと、頼りになる組長が頑張っているからだ。おかげで長く商売が居つくので、客足も安定している。
 ちなみに組長とは、商店街の組合長の略である。
 とても堅気には見えない容姿のせいで、みんなからそう呼ばれているが、実はとっても気のいいおっさん。それなのに周辺地域でのお巡りさん職務質問ランキングの首位を、長いこと独占している不憫な人。
 だが、近年これを脅かしているのは、ヒニクちゃんのお父さん。
 二メートル近い長身。厚い胸板をした屈強な体。デパートの仕立て屋に作ってもらった特注のスーツを着て、歩いている姿は、未来からきたヒットマンなサイボーグ。いたって真面目で誠実なビジネスマンながらも、その強面ゆえに、周囲が勝手に忖度(そんたく)するタイプ。
 小さな子どもに声をかけたら八割方泣かれる。初対面で平気だったのは娘の友達であるミヨちゃんぐらい。

 地元の商店街に来ている二人の小学生の女の子。
 性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
 クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。
 今日は二人して、文房具店にノートと鉛筆を買いに来ていた。
 悩んだすえに、ミヨちゃんは、かわいいモフモフたちのイラストが描かれた品を購入。
 ヒニクちゃんはいつも通り、まるで色気のない渋い定番の品を購入。
 ミヨちゃんは年相応に、かわいいモノがスキ。
 ヒニクちゃんは基本的に、シンプルな品を好む。
 そんな対照的な二人だが、幼稚園で出会って以来、大の仲良し。

 仲良く買い物をすませた二人がぶらぶら。
 すると子どもには馴染みのない店舗の前を通りかかる。
 酒屋兼立ち飲み屋。昼間っから呑兵衛たちが集っており、にぎやか。
 半開きにされた扉の奥から、こんな会話が漏れ聞えてくる。

「おや、黒ビールだなんて珍しい。焼酎じゃないのか?」
「あぁ、死んだ女房の命日でな。だから今日はコイツで乾杯だ」

 これを耳にしたミヨちゃんが、小首をかしげる。

「うーん。いくらクロだからって、それでいいのかなぁ」

 喪に服す。ひと口にいっても人それぞれ。しんみりから陽気まで、国によってはお祭り騒ぎになるところも。とはいえ、ミヨちゃんは坊主がポクポクチンしか知らないので、どうにもふしぎがっていた。
 すると長らく閉じられていたヒニクちゃんの口が、おもむろに開く。

「かぎりなくクロにちかいグレー。推定無罪」

 故人を偲ぶ気持ちが本当なら、ちょっといい話。
 故人をダシに呑んでるだけなら、かなりロクデナシ。
 だけど酒のツマミになれるのは、いいオンナだけだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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