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32 ヘアースタイル

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 近頃、女の子たちの間で流行していることがある。
 それはアイちゃんに髪を結ってもらうこと。
 ファッションリーダーの彼女は服装だけでなく、髪型にも一家言を持つ。
 小学二年生にして毎朝、結構な時間をかけて整えるだけあって、自身でも相当な腕を持つ。クラスメイトだけじゃなくて、大人であるはずのヨーコ先生まで、たまにセットしてもらうほどに本格派。噂では、これから告白をするという上級生の依頼を受けて、結うこともあるんだとか。

 姉から譲ってもらったという愛用のヘアブラシ片手に、ふんふんと鼻歌まじりで仕上げていくアイちゃん。
 簡単なポニーテールから、サイドをまとめてハーフアップだとか、三つ編み、ツイスト、くるりんぱ、きっちりお団子、束ねた髪をサイドや後頭部でまとめるシニヨンなどなど。
 アイちゃんの手にかかると、まるで手品みたいに仕上がっていく。
 たんに当人の希望どおりにするだけじゃなくて、似合うようにアレンジを加えたり、持ち寄ったゴム紐やリボン、髪留めなんかと合わせてもくれるとあって、休憩時間のたびに順番待ちの列が出来るほどの盛況ぶり。
 本人も髪をいじるのは好きみたいだし、この分だと美容師さんとかも、将来的にはアリなのかもしれない。

「これならお金、とれるんじゃない?」

 ミヨちゃんがからかうも、「こんなのでお金をとったらプロに失礼」と真面目なアイちゃん。オシャレ番長は理想が高く、自分に厳しいのだ。
 そんな番長の手が入ってない女子は、もはやクラスではミヨちゃんとヒニクちゃんのみ。
 キャラメル色のくせっ毛のミヨちゃん。結うには短く、ブラシだけでは太刀打ちできない。そしてヒニクちゃんは肩口にて切り揃えられた黒髪が、さらさらすぎて逆に手の施しようがない。
 これが何気にアイちゃんのカンにさわっている。
 近いうちに二人を自宅に招いて、本格的にいじりたいと考えている。密かにクラスの女子全員制覇を目論んでいるのは、まだ内緒。

「そういえば、このまえ、テレビでうわきがバレた役者が、丸ぼうずにしてたよね。まえから気になってたんだけど、どうして悪いことしたらカミ、切るのかな?」

 少女マンガでも失恋したヒロインが、ちょいちょい髪をカットしているシーンがある。気分転換とか心機一転とかいう台詞があるものの、いまいちピンとこない。だから、ずっとふしぎに思っていたミヨちゃん。
 これには思わずアイちゃんの髪結いの手も止まってしまった。
 そこでおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「あれは違う。ただのハゲ隠し」

 女の断髪は決意表明。明日への第一歩。
 男の断髪は自己演出。脱毛への敗北宣言。
 あとどれだけ美髪でも、排水溝のアレは気持ち悪いと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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