ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

31 一番

　
　今日は朝から休憩時間になるたびに、教室の中が騒がしい。
　主に男の子たちが騒いでいるからだ。
　それで何をしているのかというと、熱心に手の中でペンをまわしたり、人差し指一本にてノートやサッカーボールをまわしたり、笛を額に乗せてふらふらしたり、指をパチンパチンの連続で鳴らしたり、下手くそな口笛を吹いたり、なかにはランドセルを勢いよく振り回している子までいる……。
　やっていることは、てんでバラバラ。おかげで雑多感がすごい。そして地味にホコリがまって、うっとうしい。

「なに、あれ？」

　思わずそうつぶやいたのはアイちゃん。クラスのファッションリーダーにして女子たちに絶大な影響力を持つ子。オシャレには厳しいが、わりと面倒見がよく、なんだかんだでみんなから慕われている、オシャレ番長な姉御的存在。

「あー、あれって、たぶん昨日のテレビのせいだよ」

　昨夜、テレビの二時間特番でやっていたのは、奇妙なギネス記録ばかりの映像を集めて紹介するモノ。へんてこだろうが珍妙だろうが、ナンバーワンのオンリーワンには違いない。ようは思いついて、やったもの勝ちみたいな側面がギネスブックにはあるので、男の子たちはコレに触発されたというわけ。
　そのような説明をミヨちゃんがしたところ、アイちゃんはすっかり呆れ顔。「バカじゃないの」と一刀両断。
　その言葉に同意する女子多数。
　浮彫りになる小学二年生の男女差。精神年齢にはそこそこ開きがあるので、しようがないのだが、彼らがそれを理解するのは、もう少し後になってからのこと。

　これだから同じ歳の男はダメなのよ。と女子らがぼやいているのを尻目に、華麗にペン回しを決めていたのはヒニクちゃん。
　右回転、左回転、五本指の間をまわってはスルスル移動。ついには両手を使っての妙技に、おもわず女子たちの目も釘付けとなる。
　マジシャンが指先にて行うコインロールに魅せられて以来、ちょいちょい練習し続けていた成果が、こんなところにも露われていた。一人の時間を大切にする彼女は、わりと芸達者。

「ヒニクちゃん、すごーい！」

　これには女子一同も大喜び。素人芸ながらも、教室のあちこちで繰り広げられている痴態とは一線を画す妙技に、拍手が起こる。
　対する男の子たちは、ぐぬぬ、と悔しげな表情。
　それを見たヒニクちゃんがポツリと一言。

「ギネス、舐めんな」

　宇宙に行った人。深海に行った人。
　珍妙なギネス記録を持っている人。
　本当にスゴイのはどの人かしら？
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。